ショパンコンクール優勝者が語る演奏の本質 ブルース・リウ氏「ショパンは無限の可能性」
ただ、3年後の目標までしっかりとあって、今からその日まで多様な人たちと音楽を分かち合えるのはすごくいいことだと思っています。計画がないと、同じ曲を弾き続けてしまったり、演奏がルーティン化してしまったりする。根源的な部分、音楽を弾く喜びやエネルギーを失わないようにするのが重要だと思っています。
——ショパンコンクールで優勝したことによって環境が変わったと思いますが、優勝者の重圧のようなものはありますか。
そんなに感じていません。優勝直後は、自分にいったい何が起きているのかな、と思うこともありました。でも今は、プレッシャーがかかっているというよりも、自分に対して多くの人からの期待感があるのだと受け止めています。演奏を聞いてくれる人、待ち焦がれてくれる人たちがいるんだ、その期待に応えよう、という前向きな感じです。
僕はショパンだけではなくいろんな作曲家の曲を演奏するピアニストだと思われているので、これからもどんどん違う作曲家をレパートリーに入れたい。それを聴衆と分かち合うことに大きな喜びを感じます。
——リウさんはショパンコンクール優勝を機にアーティストとしての演奏活動を本格化されました。アジア人として初めてショパンコンクールで優勝したダン・タイ・ソンのもとで学びながら、ショパンコンクール優勝に向けて入念な準備をされてきたのでしょうか。
優勝のために何か、というふうには全然考えていませんでした。日々、自分がやらなければならないことを1つひとつこなしていった結果かなと思っています。
本当によかったのは、17歳や18歳のときではなく、この歳(出場当時24歳)になってから、ある程度、人間として成長しメンタルも成熟してきたタイミングでコンクールに出場できたことです。自分自身のマネジメントも結構うまくやれているのではないかと思っています。
自分の個性と表現したいものを出し切る
——ショパンコンクールを受けるにあたっての戦略はどのようなものでしたか。
とにかく、自分の個性と表現したいものを出し切る、それだけだったんです。「戦略」、例えば、「こういう人たちが審査員にいるから、この人たちに受けるよう狙って……」と考えると、自分らしさ、即興的な部分が失われてしまう。
それはコンクールのネガティブな部分でもあるのではないでしょうか。僕は今回、自分らしく演奏したけれど、それがたまたま審査員の方たちに好評だった。とても運がよかった、いろいろなことがうまくいったと思っています。
――「オーソドックスなショパン演奏」とされてきたものとは一線を画すようなブルースさんの演奏が非常に高く評価されたことについて、どのように思っていますか。
僕の演奏は、確かにいわゆる「ショパンらしい演奏」ではないというふうに言われる。一方で「本当のショパンがどうだったか」は誰もわからないわけですよね。
彼は200年前の人です。残された書簡や手紙からしか、「本当のショパン像」というものはわからない。でも、実際の彼は、とても複雑で多面的な人だったと僕は思う。ショパンには知られざる部分がまだまだたくさんあると思うんです。だからこれからも、どんどんショパンを掘り下げていけば、さらに面白いものが出てくるのではないかな、と。
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