ショパンコンクール優勝者が語る演奏の本質 ブルース・リウ氏「ショパンは無限の可能性」
——ショパンコンクールの前、2018年にはショパン国際ピリオド楽器コンクール(※その時代の楽器を用いて演奏する)が開催されました。このコンクールや、ショパン本人が弾いていた当時の奏法も意識されていましたか。
コンクールの時点では意識していませんでした。僕がピリオド楽器に初めて触ったのはコンクール後。ショパンだけではなくて、それ以前のベートーヴェンやモーツァルトの音楽も、オリジナル楽器で弾くと新たな発見がたくさんありました。
――具体的には、どんな発見ですか?
とくにペダルの使い方です。ピリオド楽器を使うと、譜面2ページ分ずっとペダルを踏みっぱなしでも全然音がぶれない。それは新鮮な発見でした。ピリオド楽器では大音量を出すこともできない。ショパンの曲は本当にサロン文化のために書かれた曲なんだな、といったことがわかりました。
ただ、時代はどんどん変わっています。演奏も変わるのが当たり前。今は車に乗って移動するのが普通だし、スマートフォンを使えば夜中でも離れた場所にいる人とコミュニケーションできる。
ショパンの時代、遠くに行くためには馬に乗っていたし、夕方はサロンに集まってみんなと話をするような娯楽しかなかった。人を取り巻く環境がこれほど変わってきた中で、音楽が時代とともに変遷するのは当たり前のことだと思っています。
ショパンは日々変わっていった作曲家
——私はオーソドックスなショパンを聴く機会が多かったこともあり、リウさんの明るくて自由な演奏をとても新鮮に感じました。ただ、ショパン自身が即興を好んだことを踏まえると、リウさんは即興的なショパンを体現するピアニストなのではないか、とも思います。
ショパンにおいて即興は非常に重要な要素です。実際に譜面に書かれていなくても、意識して即興的に弾かなきゃいけないと思う。
ショパンは室内楽曲をあまり書いていませんが、実は指揮者泣かせの作曲家でもあります。合わせるのがとにかく大変。弾くたびに演奏が変わっていたというショパン自身のスタイルを踏襲すると、演奏者一人ひとりが持っている「ショパン」を別の人と組み合わせるのがなかなか難しい。
ショパンの楽曲を象徴する言葉に、テンポを基準からずらすことで演奏効果を高める「テンポ・ルバート」がありますが、その解釈は人それぞれだし、しかも毎回同じとも限らない。
ショパンは学生の指導も行っていました。ただし、ある日のショパンがエチュード(練習曲)について、「こういうアクセントで弾くといいよ」と言ったとしても、そのとおりに練習した学生が翌日褒められるかというと、「なんでそんなことやってるんだ」と言われてしまうと。そんなエピソードがあるくらい、本当に日々変わっていった作曲家なんです。
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