"なぜか心惹かれる人"がしている、3大自分語り術 あの人もこの人も、語るストーリーに企みがある

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私がテレビ東京の記者として、ソフトバンクを取材していたときのことです。当時のソフトバンクは、通信事業に参入したばかり。ライバルはNTTやKDDIという、日本有数の大企業です。ソフトバンクもすでに「大企業」の仲間入りを果たしていましたが、それでもNTTは、当時のソフトバンクの20倍以上の売上高を誇っていました。

孫社長は通信事業参入直後に、自ら家電量販店に訪れました。自社の通信サービスを家電量販店で大きく取り扱うように交渉するためにです。

交渉相手は、一代で日本有数の家電量販店を築き上げた敏腕経営者。家電量販店からすると、限られた売り場をどう使うかは極めて重要です。参入したばかりで、売れるかどうかもわからなかったソフトバンクの商品やサービスは、家電量販店にとって優先度が高いわけではありませんでした。他の携帯会社に売り場を割いたほうが、確実に売り上げは見込めるからです。

このときの交渉で孫社長は、NTTを打ち破って日本の通信業界に「革命」を起こすという「夢」を熱く語りました。そして孫社長が部屋を去った後、家電量販店のトップは居並ぶ幹部を前に、こう述べたそうです。

「今のが日本で最高の『営業』だ。よく覚えておくように」

数々の大手メーカーや通信会社から営業攻勢を受けている家電量販店グループのトップもまた、孫社長の夢に巻き込まれたのです。

「獺祭」旭酒造もこの構造を用いている

獺祭の旭酒造も、日本を代表する酒蔵となった後、やはり「小さな存在が大きな敵に挑む」構造を用いています。旭酒造が酒店や飲食店に配布している「のぼり」にはこう記してあります。

「山口の山奥の小さな酒蔵 獺祭」

旭酒造は今や売り上げは100億を超えています。規模でいうと、必ずしも「小さな酒蔵」とはいえません。とはいえ大手酒造メーカーと比べると、たしかに「小さな存在」であることは間違いありません。

「最も有名な日本酒」となった今でも、旭酒造は「日本酒業界を変える変革者」としての立ち位置を持ち続けているのです。

PR上手な会社に共通する「必殺技」。それが「小さな存在が大きな敵に挑む」という構図なのです。

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