さて、そんな藤壺に、光源氏は心ひかれていくようになる。12歳になり、元服を済ませた光源氏は、ますます美しいといわれるようになった。そして最初の正妻、葵の上と結婚する話まで出てきた。
しかし光源氏の心は、葵の上ではなく、藤壺にひかれるのである。
なんという失礼な男「光源氏」
心の中には、ただ藤壺の御ありさまをたぐひなしと思ひきこえて、さやうならむ人をこそ 見め、似る人なくもおはしけるかな、大殿の君、いとをかしげにかしづかれたる人とは見ゆれど、心にもつかずおぼえたまひて、幼きほどの心ひとつにかかりて、いと苦しきまでぞおはしける。(中略)
里の殿は、修理職、内匠寮に宣旨下りて、二なう改め造らせたまふ。もとの木立、山のたたずまひおもしろき所なりけるを、池の心広くしなして、めでたく造りののしる。かかる所に思ふやうならむ人を据ゑて住まばやとのみ、嘆かしう思しわたる。
光る君といふ名は、高麗人のめできこえてつけたてまつりけるとぞ、言ひ伝へたるとなむ。
<意訳>源氏は「藤壺中宮様みたいな人、この世にほかにいない、こんな人と結婚したいよお……。葵の君は大切に育てられたお嬢であることはわかるんだけど、なんか惹かれないんだよな」と心のなかで思った。藤壺のことだけを考えるようになって、若い源氏は葛藤した。(中略)
源氏の里の邸は、修理殿や内匠寮に宣旨が下り、素晴らしい改築がなされた。元の木立や山の景色が良いのはそのまま残され、池を広くし、美しい邸に造り変わった。「ああもう、こんな邸で、理想の女性……藤壺中宮様と住めたらいいのにな、無理なんだろうけれど」と源氏は悲しくなった。
ちなみに「光る君」という名は、高麗人が彼の美しさに感動してつけた名であると、言い伝えられている。
いや、葵の上からするとひどい言われようだ。義理の母と比べられ、そのうえ新築の家を見ても「あー、理想の人と住めたらいいのに!!」と嘆く光源氏。なんという失礼な男。
しかしそんなふうに光源氏が思ってもおかしくないほど、若く、美しく、非の打ち所がない姫なのだと、藤壺についてはここまで何度も強調されている。むしろ光源氏がここまで恋する理由として、藤壺がこれまでほめられてきたのだろうとすら思う。
しかしこの光源氏の懸想が、『源氏物語』を貫く最大のスキャンダルをもたらすのである。次回、そのスキャンダルの全容を見てみよう。
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