一方で、悲しい出来事にもたくさん遭遇します。バングラデシュで病院にかかる時には、基本的に前払いで、当時はそれに加えて手術で使う医療機器は、患者の家族が事前に病院の近くにある問屋で買って持ち込む形式でした。そのような環境だと、車に跳ねられてリヤカーに乗せられた若者が、お金がなく病院で門前払いをくらうようなことは日常茶飯事でした。
またスラム街では、下痢や肺炎が原因で、暗く冷たい土の上で子どもが息を引き取っていくこともしばしばありました。
そこは、まさに生と死が日常と混在した場所でした。
このバングラデシュのスラム街での経験は、基礎研究や臨床研究ということ以外にも、私ができる、明日からでも人の命を救えることがあまりにもたくさん世界に散らばっていることを気付かせてくれました。
下痢は単なる医療課題ではない
なぜ先進的な技術が発展したこの世界で、下痢という病気が、依然、多くの人の命を奪っているのでしょうか。
それは、下痢の根本的解決には、貧困削減や社会保障といった課題もつきまとってくるからです。つまり、下痢はただ単に医療課題なのではなく、社会的、経済的、文化的、あるいは外交的にも関連した課題なのです。
だから、私たちはそういう視点でものごとを見ていく力をつけていかなければなりません。これをグローバルヘルスと呼びます。こういう多岐にわたる課題解決を模索する分野は、現在米国ハーバード大学やジョンズホプキンス大学でも、米国の非常に高い人気の専攻分野になっています。そして、こうした解決が簡単そうで非常に難しい課題は、下痢以外にもたくさんあります。
次回は、その1つであるポリオという病気についてお話したいと思います。
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