想像を絶する恐怖、「エボラ出血熱との戦い」 緊急復刊した『ホット・ゾーン』を読む
西アフリカでエボラが猛威を振るっている。WHOの発表によると、今回のアウトブレイクは、ギニア、リベリア、シエラレオネ3カ国での感染者が6553名、死者は3083名という史上最大の規模に発展している(2014年9月26日時点)。そしてついに、アメリカ本土での感染者も現れてしまった。アメリカ疾病対策センター(CDC)の想定では、このままの状況が続くと2015年1月末までに感染者数は140万にまで及ぶ可能性があるという。
本書はこの危機を受けて緊急復刊された。このタイミングで迅速に復刊されたことに加えて、400頁超の本書の価格が1300円に抑えられていることも素晴らしい。1994年に出版された原書は出版当時から大きな反響を呼び、26カ国語に翻訳されている。250万部以上の売上を記録し、エボラの起源とアメリカの首都近郊での知られざるアウトブレイクを描き出したこの本が、全世界でエボラの名を一躍有名にしたのである。発売から20年が経った今でも、エボラとは何か知るための最良のサイエンス・ノンフィクションとして、アメリカでもこの8月にペーパーバック版が7万部増刷されている。
眼球の奥の疼くような痛み
本書に最初に登場する犠牲者シャルル・モネは、ケニア西部に1人で暮らす孤独なフランス人だ。彼を最初に襲ったのは眼球の奥の疼くような痛み。その後も発熱、嘔吐と症状は改善する兆しをみせない。体調の変化だけではなく、彼は怒りっぽくなり、物忘れも増え、奇妙に受動的になったという。地元ケニアの病院で受けたあらゆる治療、抗生物質は効果がなく、モネは東アフリカでも屈指のナイロビ病院へと向かった。吐血しながらも飛行機に乗り、なんとか救急外来の待合室にたどり着いたモネだが、彼にはもう時間は残されていなかった。モネはあらゆる体腔から出血して倒れ込み、翌朝集中治療室のベッドで死亡した。
1980年当時、モネを殺したウイルスの存在を知る者は医者にも少なく、彼の最後を看取ったムソキ医師はモネの死因を“劇症肝不全”と診断した。その数日後、モネの血や吐瀉物を浴びていたムソキにも、彼と同様の症状が現れる。この未知の病に打つ手のなくなったナイロビ病院の医師たちは、ムソキから採取した血清をCDCと南アフリカの国立ウイルス研究所に送り、分析を依頼した。そして、モネ、ムソキを襲った正体がマールブルグ・ウイルスであることが突き止められる。
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