想像を絶する恐怖、「エボラ出血熱との戦い」 緊急復刊した『ホット・ゾーン』を読む

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9月4日、リベリアの首都モンロビア郊外でエボラ出血熱の疑いで倒れた遺体を確保する保健関連職員。正視できないような、こうした恐ろしい光景が、西アフリカでは日常的なものになった(写真:AP/アフロ)

マールブルグ・ウイルスとは、高熱、血栓や激しい出血などをもたらす、致死率25%にも及ぶ凶悪なウイルスである。このマールブルグ・ウイルスは、ラテン語で“ひも状ウイルス”を意味するフィロウイルス科に属している。そして、本書の主役であり、現在世界に混乱をもたらしているエボラもこのフィロウイルス科のウイルスなのだ。本書にはエボラ・ザイール、エボラ・スーダンという2種のエボラが登場するが、現在では5種類のエボラウイルスが確認されている。

一口にエボラといってもその種によって、その感染力や致死性は大きく異なる。エボラ・スーダンはその致死性が50%にも及ぶが、エボラ・ザイールは更にその上をいく。なんと、エボラ・ザイールの致死性は90%、つまり感染した者10人中9人が亡くなってしまうほどの威力があるのだ。今回の西アフリカでのアウトブレイクも、このエボラ・ザイールによるものだという。本書出版からの20年で、エボラの自然宿主がコウモリである可能性が高いことなど新たな事実も明らかになってきているが、有効なワクチン、治療法は未だ確立されていない(ZMappなど動物実験で有効性が確認されたものもある)。

マールブルグの脅威にさらされたアフリカからスタートした本書は、1976年のエボラと人類の初めての邂逅の物語を経て、1989年のアメリカへと移る。その舞台はバージニア州レストン、首都ワシントンからわずか10マイル程度の距離にある都市だ。舞台の中心地は、熱帯各地からアメリカに輸入されてきたサルが全米各地に輸送される前に1ヶ月間留め置かれる検疫所の1つ、レストン霊長類検閲所。この検閲所の異変に、最初に気付いたのは施設の管理人。フィリピンからやってきて1ヶ月しか経っていないサル100匹のうち、29匹が死んでいたのだ。

アメリカに現れた殺人ウイルス

サルの死因を突き止めることのできなかった検閲所の獣医は、アメリカ陸軍伝染病医学研究所に助けを求める。陸軍で最初にサンプルを分析した実験技師トムは、自分が目にしているものが信じられなかった。顕微鏡が映し出しているウイルスは、あの悪名高きマールブルグにそっくりな、ひも状の姿をしていたのである。トムの脳裏に言葉がめぐる、「まさか、アメリカにマールブルグがいるはずがない」。しかし、トムの嫌な予想は悪い方に外れる。このウイルスは、マールブルグよりも恐ろしいエボラウイルスだったのだ。

アメリカ本土に現れたまさかの殺人ウイルスに、陸軍は総力をあげて立ち向かおうとする。ところが、陸軍にはアメリカ本土でウイルスと戦うという指名を議会から付与されてはおらず、その役目を負っていたのはCDCであった。これが、未曾有のウイルス禍に立ち向かうために厄介な事態を引き起こす。陸軍にはこのような事態に対処する能力はあったが権限はなく、CDCには権限はあったが能力がなかった。組織の軋轢を乗り越え、彼らがどのようにこの事態に立ち向かい、勝利したのか。ウイルス発生現場はもちろん、研究室においても死という究極的な危険がつきまとうリアリティがひしひしと伝わってくる。この危機を乗り越えた経験が、きっと今回のアウトブレイクにも役立つはずだ。

エボラは恐ろしい。読み終えたとき、誰もが思うはずだ。本書が描き出すエボラの物語は、あのスティーブン・キングが「人生の中で最も恐ろしい読み物の1つ」と評するように、背筋が凍る。しかし、それ以上にその恐怖のウイルスに立ち向かう医師、研究者や軍人たちの勇敢な姿に胸を打たれるはずだ。彼らが恐怖を感じなかったわけではない。恐怖に震えながら、家で待つ家族のことを思いながら、それでも彼らはウイルスに挑んだ。現在進行中のアウトブレイクでも、多くの医師たちがその身を危険に晒している。その致死性の高さゆえ、エボラにまつわるデマやが流布しているという。誤ったに踊らされることなく、事態の改善を願いたい。

村上 浩 HONZ

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むらかみ ひろし / Hiroshi Murakami

1982年広島県府中市生まれ。京都大学大学院工学研究科を修了後、大手印刷会社、コンサルティングファームを経て、現在は外資系素材メーカーに勤務。学生時代から科学読み物には目がないが、HONZ参加以来読書ジャンルは際限なく拡大中。米国HONZ、もしくはシアトルHONZの設立が今後の目標。

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