しかし、下痢や肺炎といった病気は、患者が多い割にエボラ出血熱やインフルエンザのように、研究対象としては地味で花形ではないため、なかなかスポンサーが見つかりません。
けれども、私はあきらめませんでした。下痢下痢――と人に話しているうちに、当時、たまたまバングラデシュにある国際下痢症研究センター(ICDDR,B)に日本人医師が勤務していたことから、そこで拾ってもらうことができました。なんでも自分がやりたいことを考え、口に出し続けるということはとても大事だな、と思いました。
そして、「人はなぜ下痢にかかるのか?」をお題に、バングラデシュのスラム街に、住み込みで研究をはじめることになりました。
生と死が日常と混在したスラム街での経験
スラム街で暮らし研究する、というのはなかなかエキサイティングなことの連続です。まず言葉が通じないので、通訳なしだとボディランゲージが中心のコミュニケーションになりますし、基本的に水だけで生活しなければならないので、シャワーは数分で済ませられるようになります。電気も通じていないことが多いので、トイレなどはロウソクを口にくわえて行き、用を足します。
いちばんドキドキしたのは、インタビューでお伺いしたおうちの子どもが、ニコニコしながら、トタン屋根でできた家の前の池らしきところからくんできた、茶色い液体を出されたとき。
これを飲んだら、かなりの確率で自分が披験者になる(下痢になる)とはわかっていたものの、炎天下の下、パンジャビーを着て一軒一軒インタビューして回るのはなかなか疲れるもので、つい口を付けてしまいました。
結果、何ともなかったのでよかったのですが、あの子どもたちのキラキラした目は今でも忘れられません。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら