思考法、勉強法、マネジメント、チーム力、営業力などの仕事術からマナー、話し方などのコミュニケーション、ビジネス教養から健康法――。書店に行けばたくさんの本が並び、Amazonで検索しても無数に見つかる。その中から一体何を選べばいいかわからないと日々思っている人は少なくないはず。
年間1000冊、10年間で1万冊以上のビジネス書を読んでいるプロ書評家の印南敦史氏が「本当に役立つ本」を厳選した『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』から、「お金の教養」のお薦め3冊に関する部分を一部抜粋、再構成してお届けする。
『お金本』(夏目漱石、国木田 独歩、泉 鏡花その他著、左右社)
偉人たちの懐具合
お金に悩むのは私たち一般人だけではないようです。永井荷風、夏目漱石ら文豪と呼ばれている人々、石ノ森章太郎、赤塚不二夫ら漫画家、ミュージシャンの忌野清志郎など、さまざまな人たちのお金に対する思いをまとめたのが本書。そのなかから、お金にまつわるおすすめの愚痴をご紹介します。
●酒との出逢い(森敦)
いつもツケで飲んでいたから、借金もだいぶ溜っていたのだろう。ぼくが檀一雄のところに遊びに行っていると、「香蘭」のおかみがちょっとした手土産を持って訪ねて来た。それとあからさまにはいわなかったが、借金の催促だとはわかっていた。
檀一雄は笑いながら愛想よく応対していたが、ちょっと額に手をあてるような仕草をすると、机の上から体温計を取って小脇に挟んだ。「熱がありますの」と「香蘭」のおかみが訊いた。(中略)「香蘭」のおかみは無理にとり上げて見て、四十度もあるじゃありませんかと言い、催促もせずに帰って行った。
ぼくも愕(おどろ)いてその体温計を小脇に挟んでみたが、やはり四十度になった。檀一雄はだれがしても四十度になる体温計を持っていたのである(226~227ページより)。
●人情物語る家計簿(遠藤周作)
昔の家計簿を見ると、いかに貧乏だったかが、手にとるようにわかる。私は世田谷の玉電松原のボロ屋に住んでいたが、今でも感謝しているのは旧玉川電車駅にちかい商店の人たちだ。電器屋さんは私が「出世払い」ということでテレビもおいてくれたし、魚屋さんは「これでお宅の先生に栄養つけさせてよ」とただで魚をわけてくれた。(中略)まだ東京の街に人情が残っていた時代である。家内が保存している家計簿を見ると、その頃の生活の一こま、一こまが甦ってくる(253~254ページより)。
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