エリートはなぜ「適度なストレス」を欲するのか 自信をつければマイナス部分も受け入れられる

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出る必要のない学会でプレゼンをする機会を作ってみたり、なんだかんだと研究会に出かけていったりして、アスリートのように自分を追い込みながら仕事をするスタイルをとっていて、そこでいつも人並み以上の成果を出していました。自分にプレッシャーをかけるのが好きな性格なのかもしれません。

ここで、「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」という心理学の基本法則を紹介したいと思います。「覚醒レベル」と「学習パフォーマンス」の間に逆U字曲線型の関係があることを明らかにした法則です。心理学者のヤーキーズとドッドソンが、ネズミを使った実験で発見しました。

この法則が示しているのは、極端にストレスがなさすぎる場合や、逆にものすごいプレッシャーがかかり、ストレスにさらされている場合には、記憶や知覚のパフォーマンスが低下してしまうこと。逆に、適度なストレスが学習パフォーマンスを最高レベルに高めてくれるのです。この法則はネズミだけでなく、人間にも当てはまります。一時的な感情によるストレスと、知覚や記憶のパフォーマンスとの間には、このような関係が成り立つと考えられています。

適度なストレスは必要なもの

Eさんはこの「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」を知っていて、あえて適度なストレスを自分に与えていたのでしょう。ドイツ人らしく、ただ生真面目に振る舞っているように見えますが、研究成果を残したり発表したりするために、あえて自分を適度に追い込んでいたのだろうと思います。自分のパフォーマンスをコントロールするのが上手なのだともいえるでしょう。

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ある程度のプレッシャーにさらされたほうが効率よく、適確に仕事ができる、というのは誰しも経験があることだろうと思います。

例えば、明日までに論文を書いてしまわなければならない、プレゼンテーションの資料を完成させなければならないなど。その前日や夜にものすごい集中力で仕事が進むということは、よくある話ではないでしょうか。

ストレスは人間に必要なもの。ある程度のストレスはあなたのパフォーマンスを最大限に高めてくれるものなのです。

中野 信子 脳科学者

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なかの のぶこ / Nobuko Nakano

医学博士、認知科学者。1975年、東京都生まれ。東京大学工学部卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて、博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。現在、東日本国際大学教授。著書に『脳内麻薬』『ヒトは「いじめ」をやめられない』『サイコパス』などがある。テレビ番組のコメンテーターとしても活動中。

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