墓じまいの有力な移動先に納骨堂が台頭した事情 斬新な墓、20年前に拒否されなかった自動搬送式

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世の中に無関心とネガティブな空気が相変わらず漂うなかで、コア層の周囲にポジティブな空気がポツポツと生まれてそれが次第に広がっていった感じだ。ネガティブな空気の下では「ポツポツ」の段階で簡単に押しつぶされそうなものだが、そうはならなかった。どうやら同社が堅持する納骨堂の立地条件が外と内を分けるシールドの働きを果たしたようだ。

立地条件はある程度人口が集まる都市部にあり、駅から徒歩5分圏内にあること。そして、経営主体である寺院と檀家(檀信徒)の関係性が定着している土地柄であることだという。常務取締役でマーケティング本部長と葬祭事業本部長を兼任する尾上正幸氏はこう説明する。

土地に根付いたお墓があってこその選択肢

「お寺と檀家さんの関係性がその土地に根付いていないと、建物ありきの関係性になってしまいます。するとお寺が納骨堂の後ろに隠れることになる。その土地で長らく続いていた信頼基盤が生かせないと、お客様も不安になりますし、お墓参りする拠点としてもあまり健全とはいえないと思うんですよ」

寺院がその土地で長らく提供してきたお墓があり、その選択肢の1つとして自動搬送式納骨堂を加える。伝統的な枠組みに組み込むことで新奇性が抑えられるうえ、新規の契約者は寺院と檀家の関係性の中に入っていくことになり、ネガティブな空気が広がる外部とはいったん切り離されるというわけだ。

このシールド効果が小さなニーズを外部から守り、拒否線を越えるまでに育てたところが多分にあるのではないか。

その反証のように、トラブルを起こしたり経営が行き詰まったりする納骨堂は信頼基盤が十分に築けていないところが多い。直近では2022年10月に北海道札幌市の自動搬送式納骨堂「御霊堂元町」が突然閉鎖を発表し、契約者に遺骨を引き取るよう依頼した騒動が起きている。運営する宗教法人白鳳寺の法人格は20年前に住職から企業が買い取ったものと報じられるように、信頼に足るシールドとはかけ離れた状況だったと察せられる。

ほかにも、周辺住民への説明が不十分なまま納骨堂の建設を進めてトラブルになる事例はしばしば報道されている。それでも1996年に約1.1万カ所だった納骨堂は2020年には約1.3万カ所になった。墓地が同じ期間に約89.6万カ所から約86.8万カ所まで漸減しているのと比べると、納骨堂のニーズは少しずつ高まっているといえる。

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