墓じまいの有力な移動先に納骨堂が台頭した事情 斬新な墓、20年前に拒否されなかった自動搬送式

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ただ、信頼に足るシールドに守られたところで、ニーズがないものはやはり育っていかない。

消えていった「オンライン墓参」

当時の自動搬送式納骨堂を経営する寺院にはオプションでオンライン墓参サービスを提供するところが多々あった。自宅や職場のパソコンから専用サイトにアクセスすると、納骨堂や寺院内の墓園のライブカメラの映像が閲覧でき、メッセージなどを書き込めるというものだ。ブロードバンドの普及期と重なったこともあり、セールスポイントに掲げる納骨堂や霊園は少なくなかった。

しかし、現在ではとんと見かけない。単純にニーズがなかったようだ。「興味を持っていただく方は多かったものの、弊社が関わったものでは、実際に利用した方は1000人中10人いるかいないかというくらいでした」(染谷氏)。

経営主体である寺院としてはできれば実際に足を運んでほしいと思うのも無理からぬとことで、早々に見切りをつけられた面もあるだろう。それを踏まえても、やはり「ポツポツ」のニーズも見られなかったということだと思われる。ニーズがなければどうしようもない。

同社が2022年に実施したユーザーアンケートによると、最近は実家の墓じまい(改葬)をした移動先として納骨堂を求める人が増えているそうだ。年代別のボリュームゾーンは50代後半から60代後半。祖先の遺灰を安置することに加え、やがて自らが加わることも想定している人が多いという。

「自分も家族も、気軽に参拝できて維持しやすいということで自動搬送式納骨堂を検討されている方が多いとわかりました。そのニーズに応えていければと考えています」(尾上氏)

そこで2022年に入り、同社は「家系樹」というデジタルサービスの提供を始めた。参拝スペースでのみ閲覧とインプットができるデジタルの記帳サービスのようなもので、家族史を書き入れたり、写真やビデオをアップロードしたりできる。

オンライン墓参とは異なり、スマホやパソコンなどからはアクセスできないようにしているのがポイントだ。

「お墓参りしたときに触れてもらうことを想定しています。納骨堂は掃除の手間がなくて、手持ち無沙汰になるという声も聞きます。そこで故人を偲んだり、家族で思い出話してもらったりしてじっくり滞在できるきっかけになればと考えて開発しました」(尾上氏)

「家系樹」
「家系樹」のイメージ。威徳寺 赤坂一ツ木陵苑(東京都港区)が導入している

家系樹が定着するかは未知数だが、確固たるシールドがあれば純粋な利用者のニーズが見定めやすいのは確かだ。その構図はおそらくほかの業種、ほかの商品にも応用が利く。

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古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。名古屋工業大学卒業後、建設会社と葬儀会社を経て2002年から雑誌記者に転職。2010年からデジタル遺品や故人のサイトの追跡している。著書に『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(伊勢田篤史との共著/日本加除出版)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)、『故人サイト』(社会評論社)など。

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