会話のペースを握る人が無意識にやっていること 相手にアクションが起こらなければ「伝えただけ」

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ここで2つほど例題を出しましょう。

<例1>
あなたは「10キロダイエットしないと1年後に糖尿病で死ぬことになる」と伝えられたとします。この事実をどのように告げられたいですか?

シンキングタイム――10秒間考えてみください。

私だったら、

「桐生さん、あなたにはまだやるべきことがたくさんあります。ここでくたばってもらうわけにはいきません。どうか1年で10キロダイエットしてください」と言われたら燃えてきます。あなたなら何と伝えられたいでしょうか?

<例2>
あなたは会社でミスをしました。上司が猛烈に怒っています。どんな風に上司から怒られたいですか?

★シンキングタイム――10秒間考えてみください。

 私なら上司から、「私は猛烈に怒っている。君ほどの人がこんなミスをするなんて。何かあったのか?」と怒られたいです。怒られていますが、何だか承認されているような気持ちになります。

心理療法のエンプティ・チェアという技法がまさにこれです。エンプティとは空(から)、チェアとは椅子。まず空の椅子に自分を座らせて、「自分はどう思うか」を考えてみる。自分がどう思うかならば、誰でも100%想像できますね。

次に相手を座らせて「相手はどう思うか」を考える。自分ならどうか? 相手はどう思うか? 想像力を養う訓練です。これを繰り返すと、脳内のシナプスが強化されて、想像することが習慣になります。

大事なことは、うまく伝えることではなく相手に伝わることです。「伝える」と「伝わる」はまったく次元が違います。1文字違いですが、雲泥の差です。

相手にアクションが起こらなければ「伝えただけ」

「伝える」と「伝わる」の違いについて考えてみましょう。「伝える」とは自分の考えを一方的に発する行為で、主体は自分にある。「伝わる」とは相手が受け取っている状態で、主体は相手にある。

一般的にはこう言われていますが、わかるようで、わからないような……、もう少し具体的な線引きが必要ですね。私は「伝える」と「伝わる」の基準をハッキリ定義しています。

それは、相手のアクションです。相手にアクションが起こらなければ「伝えただけ」、アクションが起これば「伝わった」とする。例えば、朝礼で「元気よく挨拶しましょう!」と呼びかけたとします。でも、誰も挨拶しませんでした。これは伝えただけで、伝わったとは言えません。

一方、本当に元気よく挨拶しだしたら、それは伝わったと言えるでしょう。営業もそうです。営業で期待するアクションは購入していただくことです。「検討しておきます」と言われたら、商品の内容を伝えただけで、商品の本当の良さは伝わらなかったのでしょう。上司が部下に「斬新なアイデアを資料に盛り込んでくれ」と言って、部下から普通のものが出てきたら。部下には何も伝わっていなかったということです。

相手にアクションが起きる。ここが「伝わる」というライン。非常にハードルが高いかもしれませんが「伝えたのか」「伝わったのか」、相手のアクションを基準にすれば一目瞭然です。

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