元官僚の46歳社長が毎週「駐車場整理」する深い訳 社長にこそガンガン「現場の実務」させるべきだ

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また、繁忙期のレストランを手伝っていたところ、これまた待ち時間が非常に長くなっていました。そこで、提供スピードの改善に向けて、飯盛り機やエスプレッソ作成用の大型のスチームポットなどを導入したり、レジ設定を変更したりといった対策を「その場で決める」ことができました。

「事件は現場で起こっている」というのはよく言われる言葉ですが、まさに事務所で数字だけ見ていてもよくわからない課題が現場には山積しています。

これをどれだけクイックに発見し、優先順位を見極めながら対応を進めるか。それがサービス水準を下げずにコストを適正化していくためには必要であり、その見極めには経営陣自らが現場に入ることのメリットは非常に大きいのです。

コロナの影響下でも「バブル後で最高益」達成

こうして迎えた2021年。

年末年始、ゴールデンウィーク、夏休みといった本来の多客期を狙ったように新型コロナが蔓延し、その都度、緊急事態宣言が出される状況が続きます。

そういう苦しい環境ではありましたが、結果としては前年を上回る集客に成功しました。売り上げも2年前の年(2019年)を少し超えるラインにまで回復。そして、それ以上に大きく回復したのが営業利益でした。

「売り上げが戻らなくても黒字を」というかなり厳しい計画を立てていましたが、それを超えるコスト管理を各現場が徹底してくれました。そのうえでお客さんの満足度を落とさなかったからこそ、利益改善につなげることができたわけです。

白馬岩岳としては、コロナ禍に悩まされた1年だったにもかかわらず、2021年には、なんとバブル崩壊以降最高の営業利益を達成できたのです。

こうなって初めて、利益を次につながる有効な投資に回せるようになります(参考:「安売り競争」が日本の観光地をダメにする根因だ)。1つには、新アトラクションやイベントの企画、古くなった施設のリノベーション・修繕を行うことです。

そしてもう1つ大事なのが、スタッフの頑張りや成長にしっかり応え、次につながるモチベーションを高めることです。2021年には、私が社長となって以来初めて、しっかりとしたボーナスを出すことができました。慢性的な経営の苦境で上がり幅がほとんどなかった昇給も、ほぼ全員に実施できました。

週末になると毎日駐車場整理をしたり、リフト係をやったり、ウェイターとして働いたりと、確かにくたくたになる1年ではありました。でも、ボーナスの支給を喜ぶスタッフの声が、何よりも強く印象に残っています。

現場の業務に漬かりながら日々の改善を進め、次の投資余力をつくって新しい魅力づくりを進める。大変ではありますが、こうしたプロセスを全国の経営者の皆さんと味わっていけることを楽しみにしています。

和田 寛 白馬岩岳マウンテンリゾート代表

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わだ ゆたか / Yutaka Wada

1976年生まれ。東京大学法学部卒業後、農林水産省、ベイン・アンド・カンパニーを経て、2014年に白馬で働き始める。

2016~17年の記録的な少雪でスキー場の来場者が激減したことを受け、白馬岩岳マウンテンリゾートの経営者として冬期のスキー客だけに頼らない「オールシーズン・マウンテンリゾート」を目指した改革に取り組む。革新的なアイデアを次々投入した結果、2019年にはグリーンシーズンの来場者数がウィンターシーズンを超え、収益も改善。2022年には18万人(2014年比818%)を超える見込み。

その活躍が大きな話題となり、わずか4年で「ガイアの夜明け」「ワールドビジネスサテライト」など100を数えるテレビ番組に紹介される。

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