36歳で希少がん発症「仕事を失った会社員」の今 「がん患者と仕事」病院や会社の取り組み

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従業員向けには、がん検診や産業医の相談体制の拡充をはじめ、1日4時間から働ける傷病短時間勤務や、時間単位有休制度、さらに傷病退職から最長2年までは退職時と同じポジションで再入社できるカムバック制度などを導入した。

制度充実にあたり心がけたのは、「経験者の声を聞くことだった」(片岡氏)という。

「がんを経験した社員に話を聞くと、『通院に半日もかからない』とか『通院のたびに半休を取ると、残りの有給が少なくなる』という声があったので、必要な時間だけ有給が取れるよう制度を整えた」(片岡氏)

制度の充実と並行して、情報発信にも注力した。まず、従業員とビジネスパートナーそれぞれに、制度内容をまとめたプログラムブックを配布。イントラの「がん共生プログラムサイト」では、がん経験者の社員へのインタビューを掲載し、がんへの理解を促している。

サステナビリティ推進室 佐藤幸子室長は、「がんに対する理解を深めることは、がんを自分事化するだけでなく、早期発見やがんによる退職の防止にもつながる」と話す。

がんをきっかけに退職・廃業する人の多くは、診断確定から初回治療が始まるまでに仕事を辞めている。佐藤氏は、「『がんになったら、もう働けない』ではなく、『がんは治る』、『治療と仕事の両立支援制度がある』と知ってもらえば、がんによる退職も防げるのではないか」と話す。

がん共生プログラムをきっかけにさまざまな制度が充実したが、時間単位有給は、がん以外の病気や育児、介護においても利用が可能だ。片岡氏は、「時間単位有給は、家族の通院付き添いや不妊治療にも利用でき、幅広い社員から好評です。ひとつしっかりした制度を作ることが、社員に優しい組織作りにつながる」と話した。

がんは特別な病気ではなくなってきている

がんは、誰もが罹りうる病気だ。ただ、医療は日々進化し「がんになったら働けない」というイメージは、過去のものになりつつある。がんに罹った大切な人が、希望の治療を受けて、安心してがん克服後の人生を送るには、本人の意思や体調に合わせて働き続けられる環境が必要だ。

がんを特別なものと捉えず、個人の能力を可能な限り発揮できるよう、育児や介護と同様にサポートすることが、多様性を受け入れる強靱な組織作りにつながるのではないだろうか。

笠井 ゆかり フリーライター

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かさい ゆかり / Yukari Kasai

1986年生まれ。大阪府出身。神戸大学法学部法律学科卒業。2009年、NHKに入局し、地方局で司法・警察取材を担当。生命保険会社への転職後は、代理店営業やコンプライアンス部門のリスク管理業務に従事。結婚を機にWEB関連会社のライターとなり、2020年からフリーライターとして独立。1児の母。Twitter:@nyagaWEB1

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