36歳で希少がん発症「仕事を失った会社員」の今 「がん患者と仕事」病院や会社の取り組み
その後、部署を転々とさせられるうち、がんの後遺症であるリンパ浮腫を発症。激しい痛みに耐えながら勤務し、帰りに部分麻酔の注射を打つため通院した。そんなある日、上司から退職の宣告を受ける。
「上司からは『君にさせる仕事がない』、『会社都合にはしたくないので、自己都合で辞めてくれ』と言われました。でも、自己都合か会社都合かによって、失業給付の扱いが変わってしまう。そこで、退職勧奨という形で辞めることになりました」(横山さん)
退職後はフリーランスのSEとして、かつての仕事仲間に頭を下げて仕事をもらったが、「明日の食費にも困る生活が5年ほど続いた」(横山さん)という。
「家族を抱えながら、通帳の残高が0になるのは恐怖だった。『自分が死んだほうが、家族は保険金で裕福に暮らせるのでは』と考えました。体も無理はきかず、『生かされるのは辛い』と何度も思いました」(横山さん)
「再発したら、治療せずに人生を終えよう」と決めていたと言うが、何とか仕事が軌道に乗ってきたころ、公益財団法人日本対がん協会から声がかかり、現在、同協会で勤務し、がん患者や家族の支援を行っている。
がん治療と就業を両立させる人も増えている
「医療の進歩により、がん治療中に社会生活を送れる人も増えている。企業は少し配慮するだけで、貴重な人材を失わずに済むはずだ」と話すのは、国立がん研究センター がん対策研究所 事業統括の若尾文彦氏だ。
がん種や個人差はあるものの、現在、がん治療における入院期間はおよそ10日前後と短期化している。
手術前の検査や、術後の抗がん剤治療や放射線治療も外来で行うのが主流だ。外来での治療中は、「本人の体調によるが、仕事との両立も可能だ」(若尾氏)という。
がんに罹患した社員に対して、企業はどんなサポートができるのだろうか。
若尾氏は、国立がん研究センターが運営する『がん情報サービス』など正確な情報を活用して、「まず、企業も社員もがんの現状を知り、『不治の病』という印象を一新してほしい」と話す。
次に、働き方に関する制度の点検をしてほしいという。若尾氏は、すでに在宅勤務や時差出勤などの制度がある企業はそれを活用しつつ、「短時間の通院が必要となるので、半日もしくは時間単位有休があると便利」だと言う。
加えて重要なのが、制度と相談窓口(人事部や産業保健スタッフなど)を、日頃から社員に周知しておくことだ。社員が「治療と両立して働ける制度がある」と知っていれば、制度活用だけでなく、早まった退職の防止にもつながる。「とくに管理職への周知・教育は重要です。がんや制度の正しい知識があれば、部下に適切なアドバイスをすることができる」(若尾氏)。
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