四則計算できない高校生がいる日本の厳しい現実 支援員を奮闘させた「本当は勉強したい」気持ち

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この活動を通じて、OさんのF高校の生徒に対する印象は変わってきた。当初は、四捨五入もわからない、簡単な日本語の文の意味も把握できない、勉強の仕方がわからない生徒たちの姿に驚いていた。しかし、指導員が丁寧に教えてわかると、彼らはとても嬉しそうな表情になる。

毎時間、プリントができるとそれぞれの生徒が支援員のところに持ってきて確認してもらうのだが、その時に良い点を見つけて褒めると、パッと表情が明るくなる。そうしている内に、生徒たちは早く褒めてもらいたくて、支援員の前に我先に並ぶようにもなった。

そのような姿を見て、「彼らはこれまで勉強に関わることが少なかったんだ。勉強に関心がない子たちと思っていたけれど、そうではなかったんだ」とOさんは実感する。

こう気づくと、教え方も一層工夫するようになる。単に正しい解答を導くだけでなく、考えるプロセスを一緒に辿ることを心掛けるようになった。「紙と鉛筆を持って、とにかく生徒にわかりやすいように可視化を心掛けました」とOさんは話す。

四則計算ができない生徒には、小学校低学年でやるように、○などの図形をその数だけ描いて、理解する最初のきっかけを作ったりするそうだ。

国語に関しても、「本当に、ものを読んでいない、トレーニングされていない生徒が多くて驚きました」と話してくれた。さらに「小中学校では、前に学んだことを理解していることを前提として授業をやっているようですが、文の最も基本的な構造である主語と述語がわからない生徒も多い。これは就学前に、どれだけ日本語に触れたかの違いかもしれません」と彼らの生育歴にも思いを馳せていた。

「読み・書き・そろばん」は生きていくために不可欠

主語と述語、名詞と形容詞など基本的な文法がわからなければ、国語だけでなく英語の学習にも躓く。その上、国語の読解力がなければ、理科や地理・歴史公民など全ての分野の学習でも支障をきたす。Oさんは主語と述語がわからない生徒にも丁寧に向き合ってきた。

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例えば、「桜が咲いた」という文をイラストもつけて書く。それを、「きれいに咲いた」「少し咲いた」「咲き終わった」などとアレンジし、なるべく五感を使って文の構造を覚えるように試みている。

「基礎学習」で使うプリントは高校教員が作成したものだが、それを元にしつつ、生徒が躓いている点を見つけると、つまずきのスタート時点まで戻って、その生徒に合った指導法を考えながら教える学習支援員の工夫は、現時点のAIを使用したデジタル機器ではできないものだと断言できる。

実際に学力の低い高校生を支援することで、Oさんの高校教育に対する思いも変わっていく。「高校では微分積分などをやりますが、その前に割合、読み・書き・そろばんをしっかり学ぶべき。これらは、社会で生きていくために絶対に必要だから」と力説する。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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