「Netflix広告プラン」が悪手だと言える3つの理由 「ダーマー」に広告を入れたい企業があるのか

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理由その3)オンデマンドは広告モデルに向かないから

オンデマンド映像配信が広告に向いてないのもNetflix広告つきプランがうまくいかない理由だ。YouTubeはその好例。その視聴時間はテレビ受像機だけでもすでにキー局と並ぶ水準になっている。スマホでの視聴はその何倍にもなるだろう。YouTubeの日本での広告売り上げをアルファベット社は明かしていないが、電通の集計によると2021年の日本の動画広告市場は5128億円。その中で、動画の前や間に再生されるインストリーム広告が2921億円だった。ほとんどがYouTubeだとしても3000億円に満たないのだ。同じ年の地上波テレビ広告売り上げは下降傾向とは言え1兆7184億円。YouTubeは見られている時間に対して広告売り上げが低いと言っていいと思う。

Netflixと違ってYouTubeはあれだけ必死にCMを見せようとするにもかかわらず売り上げ効率が悪い。オンデマンド配信は映像を能動的に見るためのサービスなので、CMはうざいモノでしかないからだ。YouTubeにCMが出てくるとイラついて必死で飛ばそうとする人は多いだろう。

テレビ放送は、ぼーっとつけっぱなしにしていたり、何を見ようかザッピングしているうちに自然にCMを見てしまう。広告メディアとしてこれほど都合のいいものはなかった。逆にオンデマンド形式ではCMを見せる時間は限られてしまう。広告メディアとしては構造が圧倒的に弱いのだ。

Netflixがやるべきこと

ではNetflixは会員数減少にどう対処すればいいのだろう。

まず、企画を厳選すべきだ。最近、面白い作品が減った。前は特にオリジナルは韓国作品を筆頭にどれを見ても面白かったのに、このところはつまらなくて第2話あたりでやめてしまう。なのに毎週続々新作が出てきて逆に見る気をそがれる。

もう一つは、個々の作品を丁寧に解説してほしい。プログラマティックなレコメンデーションを信じすぎている。逆に「これはここが面白い!」という生の声を聞くほうがよほど見たくなる。世界中の人の感想がNetflix画面上でダイレクトに読めたら、間違いなくそそられる。プログラミングではなく体温のあるレコメンのやり方を開発してほしい。それだけで解約率は大きく下がるはずだ。

はっきり言うが広告モデルはNetflixにとって逃げだ。CMが嫌いならそれを押し通して有料課金をもっと追求するべきなのだ。それにテレビ広告市場は日本では下がる一方だ。下降する市場に打って出るなんてNetflixらしくないことはやる価値がないと思う。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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