1人っ子政策に翻弄、「シスター」が描く若者の苦悩 中国では大ヒットを記録、SNSでも多くの共感

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メガホンをとったイン・ルオシン監督は、長編監督デビュー作となる前作『再見、少年(原題)』でもチャン・ツィフォンとタッグを組んでおり、芝居に対する姿勢を高く評価していたという。それゆえ「チャン・ツィフォンの内面的な強靱(きょうじん)さ、感覚の鋭さ、動揺しない所が、アン・ランの役柄と非常にマッチしていたのです。同時にこの役柄には、激しい攻撃性や、柔和なもろい性格ではなく、不屈の闘志を見せるようなタフなイメージを望んでいました」と感じていたという。

アン・ランの親世代は、家父長制が当たり前だった。父方の伯母アン・ロンロン(ジュー・ユエンユエン)は、弟(アン・ランの父親)に進学の機会を譲り、自分は就職をし、その給料の一部を弟のために支援してきたことから「姉なら弟の世話をするべき。(父親が)進学したおかげであんたも大学に行けたのよ」と家父長制的な価値観をもって諭すが、アン・ランは「わたしには関係ない。わたしは学費も生活費も親には頼らなかった」とキッパリ。

生まれたときから男尊女卑に苦しむ

現代の中国では女性の地位が向上し、職業や暮らし方を自由に選択できるようになったが、アン・ランにはそれも簡単なことではなかった。

イン・ルオシン監督は、「彼女は生まれたときから男尊女卑の産物だったのです。彼女の自立心と反骨精神は彼女に多くの可能性をもたらしました。アン・ランは常に反発し、自分自身をしっかりと持ち続けました。このことも私たちがアン・ランの物語を通して伝えたいことなのです。『女性は(女である前に)まず一人の人間である』、これこそが家父長制を揺るがす核心的な力なのです」と語る。

本作が中国で公開されたときは、若者を中心に「シスターをどう評価するか」「個人の価値は家族の価値より大切なのか?」といった声がSNSなどで広がり、感動と共感の声が広がったという。クライマックスで描かれたアン・ランの選択は? そしてそれをわれわれはどう感じるのか? 誰かと語りたくなるような1本だ。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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