1人っ子政策に翻弄、「シスター」が描く若者の苦悩 中国では大ヒットを記録、SNSでも多くの共感

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一方でズーハン自身も、両親の愛と幸せな日常を突然失ったことに必死に耐えているのだということに気付いたアン・ランには弟を思いやる気持ちが少しずつ芽生え始め、彼女の固い決意は次第に揺らぎ始める――。

アン・ランと弟のズーハン© 2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved

本作の時代背景となるのは、中国の急激な人口増加を抑えるために中国共産党が1979年に始めた「一人っ子政策」。原則として1組の夫婦につき子どもは1人までという制限を課し、そのルールに従った者には数々の優遇策を行い、逆に違反者には非常に重い罰金を科すという、悪名高き制度だった。

この制度では特例として、第1子が障がい児だった場合には、健常児を持つために2人目の出産を認めるとしていた。アン・ランの両親は、跡継ぎとして男の子を欲しがっていたため、アン・ランに障がい者のふりをさせてまでこの特例を受けようと画策。しかし紆余曲折あって、その試みは失敗。第2子をもうけることができなかったという過去を持つ。そのときの両親の落胆は非常に大きく、それがアン・ランの心に大きな影を落とした。

2015年には一人っ子政策を廃止

なお余談だが、中国はこの施策の影響で少子高齢化に悩まされるようになり、2015年には「一人っ子政策」を廃止。その後は子どもは2人まで許可されるようになり、さらに2021年からは子どもは3人までと緩和されるようになった。

弟のズーハンは、アン・ランとはずいぶん歳が離れているが、この規制が緩和された後に、跡継ぎをあきらめきれなかった両親が、あらためてもうけた子どもということになる。そして男の子ということで、両親からの愛情を一身に集めたであろうズーハン。アン・ランが、弟に対して抱く複雑な心境にはそういう背景もある。

本作の主人公アン・ランを演じたのは2001年生まれの新鋭チャン・ツィフォン。子役時代にフォン・シャオガン監督の『唐山大地震』で観客の涙を誘い、第31回大衆映画百花賞新人賞を受賞するなど高い評価を受け、その後も『唐人街探偵』シリーズ、岩井俊二監督の『チィファの手紙』など映画・テレビを中心にコンスタントに出演。

主演を務めたチャン・ツィフォン(写真右)© 2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved

「国民の妹」として人気を集める若手注目株が、本作に挑むにあたって長い髪をバッサリとカット。舞台となった四川省成都の方言を完璧にマスターするなど、新境地を見せたとして話題を集めた。

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