歌舞伎を見ないビジネスマンが損すること 元外資系の英国人と日本人、日本文化を語る
葛西:成毛さんの本では、三津五郎さんの著作も紹介されていますね。名著です。
成毛:それから、若いうちから歌舞伎を見ておくと、いいことがもうひとつあります。たとえば将来、市川海老蔵が市川團十郎を襲名したときに「今度の團十郎の演目の海老蔵時代を見たことがある」と言えることです。つまり、自慢できるわけです。
葛西:そういう動機で櫓(やぐら)をくぐる、つまり、歌舞伎を見に行ってもいいわけですね。
歌舞伎はビジネスとしても成立している
成毛:そうです。歌舞伎というと、難しいもの、理解しなくてはいけないという印象を持たれがちですが、でも、初見で理解しようなんて無理だと思ったほうがいいです。それどころか、理解することに意味があるとも思えません。もっとミーハーに、きれいな役者や華やかな雰囲気を楽しめばいいと思うのです。
その点で、歌舞伎は相撲によく似ています。プロ野球を接待に使う場合、案内状のタイトルは「巨人阪神戦ご観戦のお誘い」ですが、相撲は「大相撲ご観覧のお誘い」。本気でスポーツを見るなら観戦ですが、7勝7敗で千秋楽を迎えたカド番の大関が上手に勝つのを見るのは観覧ということだと思います。歌舞伎に誘うときも「観劇のお誘い」ではなく「観覧のお誘い」。伝統芸能には、それくらい肩の力を抜いて向き合えばいいのです。
それから、歌舞伎はビジネスとして成立しているところにも注目してほしいです。歌舞伎は松竹という私企業が運営しているもので、国の事業ではありません。それでも、見に行く人がいるからビジネスとして成り立っている。松竹が頑張っているからでもありますが、見に行く客が偉いのだと思います。
葛西:アトキンソンさんは、歌舞伎はいかがですか?
アトキンソン:私は、どちらかというと能のほうが好きです。それが高じて、京都の二条城近くにある町家を改装した自宅には、能舞台をつくったほどです。
能はまず、ポンポンポンという足の動きが面白くてたまりません。それから、ちょっとした手の位置の違いによって「泣いている」と「号泣している」を演じ分けるのも面白いです。あと、終わり方も好きですね。関西風に言えば、最後にオチが欲しいと思うその寸前で、終演となります。
能は、和ろうそくの灯りで見ると、そのよさをより深く理解できます。なぜ真っ白い能面をつけるのか。オレンジや紫、金色の着物を着るのか。和ろうそくの灯りの下では、蛍光灯の下では派手過ぎるこういった色が映えるのです。
これは、芸妓・舞妓の化粧についても同じことが言えます。あの白塗りの顔は、和ろうそくのゆらめきの中で見ると、とても美しく見えます。
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