身勝手な日本人が、日本の国宝をダメにする 漆塗り老舗を率いる英国人社長が見た真実

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David Atkinson●1965年生まれ。オックスフォード大学で日本学を専攻。アンダーセン・コンサルティング、ソロモン・ブラザーズを経て、92年ゴールドマン・サックス入社。2006年にパートナーとなり、07年退社。09年小西美術工芸社に入社、10年に会長、11年から社長兼務。裏千家茶名「宗真」を持つ。(撮影:梅谷 秀司)
バブル崩壊後、不良債権問題が深刻さを増す一方の時代、いち早く警鐘を鳴らし、実効性ある打開策を発し続けた気鋭のアナリストが今、百八十度異なるフィールドで日本の“現実”と向き合っている。

 

──第一線の銀行アナリストを辞めたのは42歳という若さでした。

自分の役割は終わったと思ったんですね。ゴールドマン・サックスのパートナーを辞めた2007年ごろには、ほとんど自分の提示した形で不良債権問題の最終処理、担保不動産の処分が進んだ。邦銀も2~4行あれば十分と主張して結局主要3行になり、多くの問題にメドがついた。

自分は経済全体から見た金融システムの構造問題を分析するスタンスなので、「EPS(1株当たり利益)は何円か」などに興味がない。自分が得意とする分析はもう必要とされないと思いました。引退後は茶道をしたり京町家を買って修復したり、2年ほど自由にしていました。

そこへたまたま、別荘が隣同士という縁で小西美術の経営を見てくれという話が来て、フタを開けたらこれは大変だと。文化財保護の職人を尊重しているようで、現実には潰している世界であること知りました。

小西美術は漆塗りの老舗ですが、業界のほとんどが新しい会社なんです。本物の伝統技術を持つ本物の老舗はほとんど残っていません。明治以降の修復技術が横行し、それがダメとは言わないけれど、長い時を経て受け継がれてきた方法はそれ自体が一つの文化。でも新しい会社と競争することで財政的に厳しくなり、本来発揮できる技術が使えず、技術のよさがかなり薄れていました。

銀行の上層部には何を言ってもムダ

──アナリスト時代に謎だった日本経済の強さの理由がわかったとか。

この会社に来て、日本を支えているのはいちばん下の勤勉な労働者だと知りました。まあアナリスト時代に接していたのが銀行の上層の人間、というのが悪かったんだけれど。何を言っても無駄。行動しない。日本人は農耕民族だからと平気でバカげた理由を語り出したり。何でこの国が世界第2の経済大国なのか、ずっと不思議に思っていました。

実はこの会社も、技術は落ちているのに何も変えようとしていなかった点で同じでした。社長になって、職人の正社員化や先行投資としての若手育成、数字に基づいた議論をしよう、と変えていった結果、社員の働きは期待した以上でした。全部門に職人上がりの役員を置き、彼らが決め自分が決済する。社長や親方の権限がものすごく強い業界で、小西はチームで成り立つ会社にしていこうとしています。何かを決める際は時間をかけてみんなの意見を聞き、そして徹底的に実行していく。

百八十度の転身と言われるけど、障壁は感じませんでした。そもそも伝統技術という人工的な線引き自体を否定しています。200年前、漆塗りは通常の技術だった。現代のペンキ塗りやプレハブ住宅を将来は伝統技術と呼ぶかもしれない。よく職人は10年がかりというけど、じゃあ10年かからない職種を教えてほしい。金融マンだって医者だって同じでしょ。だからこの業界を特別視してはいなかった。自分としてはあくまでもビジネスの常識を実行していくだけ。考え方を普通のビジネスに戻しましょうと。古くからの職人たちが理解・共有してくれてるかどうかはわからないけど、以前は高かった離職率は今はゼロに等しいです。

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