身勝手な日本人が、日本の国宝をダメにする 漆塗り老舗を率いる英国人社長が見た真実

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──本の中に「ミステリアスジャパニーズ現象」が出てきます。

非科学的なことを大まじめに語る、数字を直視せず精神論になる…。

最近では例の「おもてなし」です。日本では財布を落としてもほぼ確実に戻ってくるってよくいうでしょ。でも警視庁の数字では、現金では届け出があった額の40%にすぎない。残り60%にはいっさい触れず、都合のいい少数を大げさに持ち上げる。サッカーW杯のとき、日本人観客のゴミ拾いが日本人の美徳として話題になった。なら、鎌倉の花火大会の後を見てください。ゴミだらけです。立派なおもてなしは確かに存在しても、それで日本が世界一のおもてなし国である客観性にはならない。

日本の鉄道は定刻運行、犯罪も少ないなどと自慢しますが、それは単なる住民目線でいいだけで、それがおもてなし? それを確かめるためにわざわざ外国から観光に来たりしないでしょ。本当に観光立国を目指すなら、住民目線で見た日本のよさと、観光の魅力とを結び付けるのは違う。

よく「クールジャパン」でアニメやマンガなどを挙げますが、観光=ポップカルチャーでも、文化財でもない。アニメ、和食、歴史、自然と多様な選択肢がそろって、初めて観光立国は成り立ちます。2000年の歴史がある国で感動したのが自販機、コンビニ、アニメ、それだけ? 日本の魅力ってこの程度? って思う。見てると悲しくなるんですよ。

文化財に関しては国の予算が少なすぎる。文化財を楽しんでもらおうという意識がなくて、ただ保護するだけ。文化財修理の現状は、30年とか50年に1回しか手を加えずギリギリまで置いておくので、ボロボロになっている案件が多いです。

「観光立国」を目指すには発想の大転換が必要

──日本人の場合、逆に摩耗した柱に感じ入ったりするのですが。

「イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る」講談社+α新書(840円+税/200ページ)

それは見慣れた風景に愛着を感じているだけ。実際に宇治の平等院や出雲大社が大修理を終えてきれいになったら行列ができていますね。美しくよみがえると人は来るんです。外国人にももっと楽しんでもらうための工夫が必要です。京都の神社や寺はただハコモノを見せるだけで500円の拝観料が入る。建物は国が補助金で保護してくれる。しかも頑張れば頑張るほど補助率が下がるのが問題です。

観光立国するなら発想の転換が必要ですよね。京都に来た外国人観光客の不満は「英語が通じない」の次が「解説がなく何を見ているのかわからない」。そうした表記や街のゴミ箱、道標、食事場所やトイレの整備などに配慮し、楽しく過ごしておカネを落としてもらって初めて観光立国。ビザを緩和して1000万人を超えたという数字に意味はない。

──文化財修復の予算が少ない点以外でも、問題は多そうですね。

この業界では、いつどこの寺社をどう修繕したかという資料があるようでないんです。入札業者の財務状態や品質など何のチェックもない。髪を切る理容師に国家資格は必要でも、文化財修復には何の資格もいらないんです。いったん傷つけてしまえばもう戻せない。国のチェック機能が著しく低いと思います。

小西美術の社長を引き受けた理由の一つは、この会社が業界最大手だから。最大手がアクションをもって変えていけば業界全体を変えることができる。それが狙いなんです。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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