日銀バブルが国民に押し付けるツケ 狂い始めた追加緩和の前提

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それにしても、黒田東彦総裁にとっては高い授業料となるに違いない。他でもない、市場をあっと驚かせた日本銀行の追加緩和のことだ。

日銀が10月31日に決めた緩和策の内容は、マネタリーベース(日銀券と日銀当座預金の合計)の増加額を年間約80兆円に拡大し、長期国債の買い入れ額を増やすとともに、ETF(上場投資信託)やJ-REIT(上場不動産投資信託)などの買い入れ規模も増額するもの。

それまで「戦力の逐次投入はしない」「量的・質的緩和は所期の効果を発揮しつつある」と明言していただけに、誰もがこのタイミングでの追加緩和に驚いた。「事前に市場の期待値を下げておいて、最終的に世界中の金融市場に大きなサプライズを与えたことは、見事の一言に尽きる」(大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミスト)。そんな賞賛の声も飛び出すほどだ。

実際、電撃緩和に驚いた株式市場(日経平均株価)は、10月31日の終値で前日比755円高の1万6413円をつけ、11月14日の取引を終えた時点で1万7490円まで駆け上がった。「日銀バブル」ともいえる状況だ。ドル円相場は一気に1㌦=110円台に乗せ、その後、1㌦=115円前後まで円安が進んでいる。

追加緩和の前提が狂う

だが、短期的、株式市場的に「成功」したかにみえた追加緩和の狙いは、その翌週からにわかに危うくなる。追加緩和から1週間ほどのうちに、10%の消費増税先送りを前提とした年内解散・総選挙の流れがあっという間にできてしまったからだ。解散権者である安倍晋三首相が国内にいないのに、年内の衆院解散総選挙が既定事実であるかのように報道されている。

黒田総裁は11月12日、衆議院財政金融委員会に参考人として呼ばれ、「消費税率10%への引き上げを前提に追加緩和を実施した」旨の説明をしている。また、9月の記者会見では、「政府が決定した中期財政計画に従って、財政の健全化が進んでいくことを期待している」と、消費再増税と財政再建の重要性について、政府側にボールを投げ返していた。

ヘッジファンドなどの海外投資家が「クロダからのギフト」と喜んだ追加緩和は、あくまで消費再増税とセットのはずだったが、黒田総裁が想定していた追加緩 和の前提はあっさり狂いつつある。あれよあれよという間の成り行きに、黒田総裁自身驚き、あきれているのではなかろうか。

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