かっぱ寿司社長逮捕が転職者に他人事ではない訳 前の職場で驚かれた後で捕まらない為の転職ルール

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転職先で上司が無邪気を装って、

「前の会社ではこの取引先にはどういう条件を出していたの?」

と聞いてきても、

「そこは守秘義務で話せないことになっているんですよ」

で通じる世界が確立しています。

実は秘密保持については期限をそれ以上長くはできないという事情もあるようです。営業秘密の範囲については当然、裁判で争う余地があるのですが、逆に言えば無制限に「前にいた会社の話を少しでもしたら訴訟リスクがある」というのも理不尽な話なので裁判では通用しない。そこで判例を通じて1年ないし2年というルールが定着したのでしょう。

さて、日本の場合、法律が違うのと雇用慣習が違うことから営業秘密についての防衛方法も外資系企業とは少し違うところがあります。いちばんわかりやすい防衛策が、退職した役員を1年間、顧問として雇うというやり方です。

顧問というといかにも経営に参画していそうですが実はこのようなケースでの顧問は何も仕事をしなくていいのです。会社にもよりますが、顧問の肩書を与えて、個室を与えて、秘書も与えます。しかし経営には関与しなくていいというか、はっきりいえばさせないのです。つまり顧問であるがゆえに競合に秘密を流す立場にはならない。一方で1年間経営に関与させなければ本人が持つ営業秘密が陳腐化していくという合理的な考え方です。

転職先でランクアップするケースの裏側

とはいえそれよりも下のランクの従業員について同じレベルの優遇策も簡単にはとれません。部長・課長ランクの従業員が退職して、ライバル会社の役員や本部長ランクのポジションに収まったというのは要注意のサインかもしれません。可能性は2つあって、その人が前の会社で過小評価されていたか、それとも新しい会社で本人の能力だけでなくその本人が知る営業秘密の価値を高く評価しているかです。

ライバル会社が欲しがる営業秘密の具体例を挙げましょう。保険会社でよくあるのが顧客リストです。自分の顧客をごっそり持ったまま別の会社に移り、前の顧客に営業をかけるという話。

「転職した話を耳にして向こうから連絡してきたんですよ」

と本人は言うけれども、会社としては「どうだろう?」と思うケースです。

そういう黒に近いグレーなケースと比較すれば、キーパーソンについての情報を持ち出されるのは、対抗策が難しいかもしれません。訴えにくいのは法人営業の場合の「顧客企業のキーマンは誰か」とか、ソフトウェア会社の社員が知っている「委託先の開発メーカーのキーとなるクリエイターやエンジニアが誰か」といった情報です。記憶して持ち出しやすく、営業秘密価値が高く、しかし法律では縛りにくい情報でしょう。

次ページ逮捕されるような事例では持ち出す営業秘密はあからさま
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