かっぱ寿司社長逮捕「迂闊な引き抜き」への警告 前勤務先の営業秘密流出はどれほど危ない行為なのか

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かっぱ寿司の看板
かっぱ寿司をめぐる事件が指し示す企業リスクとは?(撮影:今井 康一)

回転寿司チェーン「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトの田邊公己社長(46)が警視庁に逮捕された。

容疑は不正競争防止法違反だ、田邊氏はかつて同業である「はま寿司」の親会社となるゼンショー(現ゼンショーホールディングス)へ1998年に入社。はま寿司の取締役を2014年から2017年にわたって務め、ジョリーパスタやココス・ジャパンなどゼンショーグループの会社の社長を歴任して、競合のカッパ・クリエイトには2020年11月に顧問で移り、同12月に社長となった。

その移籍前後で、田邉氏は元同僚に依頼してはま寿司の日次売り上げデータや材料の仕入れ価格などの情報を入手していたようだ。受け渡しの手段はメールだったとされる。カッパ・クリエイトの商品企画部長、田邉氏のはま寿司時代の元部下の男も逮捕された。

回転寿司業界は、売上高や店舗数の順にスシロー、はま寿司、くら寿司、そしてかっぱ寿司と続く。市場規模は大手だけを合計すると7400億円程度と類推できるが、地方の無数の中小零細企業が運営するお店の売上高を合算するともう少し大きいだろう。右肩上がりではなく横ばいでお客を取り合っていると考えられ、競合はきわめて激しくなっている。

カッパ・クリエイトの業績推移

この事件は突然、降って湧いた話ではない。現在から遡ること1年前。2021年7月に衝撃的なニュースリリースが流れていた。主体はカッパ・クリエイト。「当社役員に対する競合会社からの告訴について」というタイトルだった。このリリースでは、はま寿司から、かっぱ寿司に対して不正競争防止法に纏わる告訴がなされたと公表し、田邊社長も「日次売上データ等を数回に亘って個人的に送付を受けていた」と認めていた内容となっていた。

そこからおそらく慎重な捜査が行われたはずだ。そして1年後の2022年9月30日、不正競争防止法違反で逮捕された。もともとは日次売上データ“等”とのことだったが、仕入れ価格も加わった。推定無罪の原則があるため、現時点では断言ができない。ただ、これは市場の取引を歪めたと判断されたためだろう。

他社とふれあいは脱法か

個人的な話だが、私は自動車メーカーの研究所で働き、主戦場の北米へ出張したことがある。その際に上司から「ライバル会社の社員と絶対に話すなよ」と言われた。「何百人と捕まっているからな」と。日本では緩やかな雰囲気のなかで同業他社と同業種での情報交換が行われる。しかし、北米では会うことすら許されない、という。

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