あれほど好きだった酒は、「彼女が授乳していてお酒が飲めないうちは基本的にやめる」ことにした。少なくとも子どもが成人するまでは健康体で働き続けるため、コーラや菓子パンも断っている。昇進をして部門間会議などが増えたり、報道局に戻って不規則な働き方を再開することは、できるかぎり避けている。
仕事上の成功よりも、「実質的な幸せ」が欲しい
「仕事での野心はいっさいありません。今の職場は業務内容的にも自分に合っていると思います。テレビの仕事は好きだけれど、裏方のほうが自分には向いているとようやく気づきました。舞台でいうと、役者や演出家ではなくて、照明係が向いているのと同じです。もちろん、家族のことを考えて残業や地方出張はできるかぎりしたくない、という面も強いですけれど」
禁欲的とも言える生活を送っている恭一さんであるが、なぜか表情は明るい。2つの理由があるようだ。
「一人旅も飲み会も独身時代にさんざんやったので、今さらどこかに遊びに行きたいとか自分の時間がほしいという気持ちはもうないですね。ヨメさんが頭がよくて気が強いのもすごくいい。昔は『私、できなーい』と頼ってくれるような女の子をかわいいと思っていたけれど、結婚するならば何でも決めてくれて、実行力がある女性のほうが絶対にいいですよ。
うちは子どもの保育園から休日の過ごし方まで、何でも彼女がパッパと決めてくれます。たまに反論することもありますが、僕の意見が通ることはないですね。それでいいんです。彼女が言っていることに間違いはないのですから」
無駄なプライドや思い込みがなくなって、「実質的な幸せ」を喜べるようになることは加齢の数少ないメリットだと思う。表面を飾り立てているだけで味も接客もいまいちのダイニングバーよりも、内装はそっけないけれどおいしくて清潔で親切な居酒屋のほうが心地良くなる。生活のパートナー選びも同じだ。
結婚は我慢だと若い頃は思っていた。でも、結婚をしてみると、相手選びと生活の工夫次第で我慢は不要になると気づく。配偶者を支えてその能力を仕事でも家庭でも大いに発揮してもらうことが、自分自身の暮らしも長期的に快適にしていくとわかってくる。「娘の結婚式までには寿命を迎えている」とうれしそうに嘆く恭一さんだが、30年後も穏やかで決定権のない結婚生活を楽しんでいる気がする。
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