そうこうするうちに難病の合併症が進行してしまい、会社は退職することに。心臓、肺など、何度も手術を受けた。その間もソラさんは本を読んだり、セミナーに参加したりして、今後どうやって生きていくかを探り続けていた。
同じような子どもたちのために当事者として言える
いま、ソラさんは都内で夫と暮らしている。数年前、按摩マッサージの専門学校で知り合った夫が店の開業準備を進めているので、そのサポートをしながら、自分がこれからすることを考えている。ソラさん自身は、妊娠により資格取得を見送ったが、このときは体調が万全でなく、出産はかなわなかったという。
「自分がいた児童養護施設はなくなっちゃったから、いま住んでいる区の施設を応援するような活動をできたらいいなと思ってます。やっぱり、どういうふうにしてほしかったか、自分がわかるから。行政や施設の職員の人などに、私は当事者として言える」
たとえば、料理を身につけさせてほしかった。施設では「火は危ない」と言われて料理をさせてもらえなかったので、東京に出てからはコンビニなどで買ってきた総菜ばかり食べていたところ、たちまち免疫力が落ちて体調を崩してしまった 。いまはなんでも作れるそうだが、本当は施設を出る前に覚えたかった。
冬には上着を着ることも知っておきたかった。施設ではいつもポロシャツにトレーナーだけだったので、大学に入っても同じような格好をしていたら、バイト先の人たちに「なんでそんなに薄着なの?」と驚かれ、笑われたこともある。
銀行口座の預け入れや引き出し、生活費の管理方法なども、指導がほしかった。いまならネットである程度のことは調べられるが、誰かの手を借りたいこともやはり多いので、支援やサポートを得るための情報も知っておきたかった。
これから一番やりたいのは、カフェを開くことだ。ソラさんが好きな、音楽と食べること、人とのコミュニケーションの3つを、カフェなら同時にかなえられる。飲み物や料理を運ぶことはできないが、カウンターの上に置いてお客さんにもっていってもらえばいい。
「そんなの無理だ」と言われても、ソラさんは気にしない。大学に入ったときも、ひとりで海外に行ったときにも、これまでさんざん言われてきたことだ。下調べは着々と進めている。簡単ではないだろうが、ソラさんはきっといつか、自分の店をもつのだろう。
わたしがフルーツをぼとぼと落としながら食べたサンドを、ソラさんは最後まできれいに食べ終えた。盲導犬は、じっと静かに、わたしたちの話が終わるのを待っていてくれた。
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