左脳欠如を見事に克服した44歳彼女に起きたこと 激しくなくても十分、運動によって脳は変わる

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左脳は分析や論理的思考をつかさどり、数学的・言語的思考の中枢といわれる。いっぽう右脳は、芸術性や創造性をつかさどる場所とされる。左脳が受け持つ役割を踏まえれば、ミシェルが抱える問題の多くが腑に落ちた。言葉を正確に話せないのも、言語を処理する領域が欠けていることで説明がつく。そして左脳は(反対側の)右半身の動作をつかさどるため、右腕と右足を動かすのが難しいのも、なんら不思議はなかった。

しかし、注目すべきはこのあと彼女に起きたことだ。ミシェルは医師らが予想もしなかった速さで、欠けていた能力を見事に発達させた。同年代の仲間よりいくらか動作は遅いが、歩くことも話すことも読むことも、ある程度は普通にできるようになった。そして今、ミシェルはごく一般的な生活を送り、パートタイムの仕事もこなしている。

常人には真似できない「記憶力」の発達

様々な検査によって、ミシェルは抽象的思考が不得意だとわかったが、反面、驚くべき記憶力に恵まれていることも判明した。年月日を無作為に選んで何曜日か尋ねると、彼女は即座に言い当てることができる。「2010年3月18日は何曜日?」と訊くと、すぐに「木曜日よ」と答えるのだ。

私たちの右脳と左脳は、脳全体がバランスよく機能するように助け合っている。だが、右脳も左脳も、単純に反対側に欠けているものを補うというわけにはいかない。もしどちらかの特定の領域が極端に発達したら、脳は全体のバランスを保つためにもう片方の働きを抑え込んでしまう。つまり、脳は特定の能力が極端に高くなったり低くなったりせず様々な能力が均一になるようにできている。

とはいえ、右脳と左脳が物理的に互いに情報を伝達できない場合には、脳全体のバランスを犠牲にして、ある種の能力を開花させることもある。まさに、これが少年キム・ピークに起きたことだ。彼は「脳梁」という右脳と左脳を連結する神経線維の束に損傷を受けた状態で生まれた。キムは4歳になるまで歩けず、重い発達障害があると診断された。しかしミシェルと同様、キムもまた誰にも予想できなかったスピードで障害を克服し、能力を発達させた。

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