経営者としてM&Aが成功したかどうかは、さまざまな観点から評価できますが、彼女がいくら燃え尽きていたとしても、その意思決定をした段階では、誰よりもその会社の未来のビジョンを見ていたはずです。
ですから、心から祝福できる正しい選択だったと言えるでしょう。
本書の存在は、彼女の人生や決断にとって、追い風になっていくのではとも思います。
弊社、Kakedasのビジョンは、「人生の主人公を増やす」ですが、これは、ナラティブの思想に基づいています。誰もが自分の物語を持って生きているのだと解釈できれば、過去に対する意味づけがしやすく、生きやすくなります。
ジェイミーさんは、本書の中で、事業のことだけでなく、家族に対するとらえ方が変わったことにも触れていて、自身のアイデンティティに対して新たな意味づけをしていることが読み取れます。ラストに多くの謝辞が述べられているのも、ナラティブの強化になっています。
M&Aについても同じで、現在の評価がどうであれ、彼女なりの方法で、今後5年、10年という長いスパンをかけて、その決断を「正解」にしていけるパワーを持っているのではないでしょうか。
弊社は今年8月、M&Aによって東証上場企業の連結子会社となりました。5年前、19歳で起業した当初の私は、実は、M&Aに対して、それは「逃げの選択肢」だろうというネガティブなイメージを抱いていました。
自己顕示欲のサイズが変わった
起業家なら、自分の会社を成長させてIPO(新規株式公開)までもっていくことがいちばんクールで、それ以外の選択肢などないとまで思っていたのです。
当時の自分と現在の自分とで大きく違うところは、自己顕示欲のサイズです。19歳の頃は、とにかく目立ちたがっていて、メディアにも出たがり、お金も欲しかった。
自分は、世の中にとって意味のある存在だということをみんなに知ってほしいし、それをいろんな方法で証明したかったのです。「根拠のない自信」を保つほかなかった。だから、いろんなチャレンジもしました。
しかし、ピボット(方針転換)する過程で、その感覚を同じ純度で抱き続けることはできませんでした。むしろ、リアリストとして、経営力の乏しさや、うまくいかないときのふがいなさを感じるのです。持つ意味のない自己顕示欲は、だんだん削がれてゆきました。
そんな経験があったからこそ、IPOを目指すという道と、今回のM&Aという道を、思い込みや思い入れなく、フラットに比較することができたと思います。今の自分の立場から、より早く事業を展開するためには、M&Aのほうがより良い選択だと判断できたのです。
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