40代で「親が大嫌い」と呟き世界が変わった人の話 ため込んだ呪いを口にしたら扉が開かれた

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すると不思議と、逆の思いも生じてきた。「大嫌いだ」と口にしているうちに、今度は「あれ? 本当に?」という疑問が湧き始めたのだ。

「『嫌いじゃないかも?』って思ったんです。たとえると、私はハート形の愛情を、手渡しで欲しかったんですけれど、親は全然違う形の愛情を、ポケットに入れておくとか、私が欲しいやり方じゃない方法で、くれていた。それを私が『もらってない、もらってない』って“ないもの”にしちゃっていたんです。ポケットを開けてみたら『あ、あったな』みたいな感じ。それに気づかなかった自分が嫌なんだな、と思って。

子どものときに『勉強しなさい』ばかり言われていたのも、『将来困らないように』という親なりの愛情だったんですよね。そういうのを1個1個、『知っていたかったな』と思います。そうしたら、ありがとうって言えたのに」

親を嫌いだと思ったのも、親からの愛情に気づけなかった自分を嫌だと感じたのも、どちらも本当の気持ちなのだろう。気づけないようなやり方で渡されても、愛情を受け取れないのは当然だ。負の感情を認めたからこそ、光世さんはそれまで気づかなかった親なりの愛情にも、気づけたのかもしれない。

次の課題は、娘と向き合うこと

光世さんはその後、「目の前のことだけに集中しやすくなった」という。以前は、夫や子どもとやりとりするなかで、過去に自分が親からされた嫌なことをよく思い出していたが、それがなくなったからだ。誰かが「これをあげる」と言ってくれたときも、「いらない、もらいたくない」と拒絶していたが、いまは「受け取りやすくなった」と話す。

「受け取るための袋をやっと開いた、みたいな感じです。ずっと袋を開けていなかったから、ぼろぼろ落としていたんだと思います。誰が愛情をくれても、『もらってない、ちょうだいちょうだい』みたいにブーブー言っていた。

でも、親の愛情が『あった』と気づけてからは、『あるから、出せる』みたいに変わったんだと思います。前は『ない』と思っていたから、『私からは出ません』と言っていたのが、今はやっと『出すことで頑張る側』になれたのかな、という感じです」

これから光世さんは、何に頑張るのか。次の課題は、娘さんと向き合うことだという。娘は昔の光世さんに似て、人に甘えられず、言いたいことを言えないところがある。だから、娘が将来結婚したり子どもを産んだりしたとき、自分と同じように悩むのではないかと心配なのだ。

そう口にしたとき、ずっと笑顔で話していた光世さんが、急に泣きだしてしまった。

光世さんがどれだけ悩んできたのか、どれだけ娘を思っているのか。ほんの1時間やそこら話を聞かせてもらっただけの私には、はかりしれない。ただ、もし娘さんが将来、彼女と同じように悩んだら、光世さんの体験をそのまま伝えれば十分ではないか。思いは、ちゃんと伝わるはずだ。

本連載では、いろいろな形の家族や環境で育った子どもの立場の方のお話をお待ちしております。周囲から「かわいそう」または「幸せそう」と思われていたけれど、実際は異なる思いを抱いていたという方。おおまかな内容を、こちらのフォームよりご連絡ください。
大塚 玲子 ノンフィクションライター

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おおつか れいこ / Reiko Otsuka

主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTA(学校と保護者)」。著書は当連載「おとなたちには、わからない。」を元にまとめた『ルポ 定形外家族』(SB新書)のほか、『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』(教育開発研究所)『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(同)など。テレビ、ラジオ出演、講演多数。HP

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