すると不思議と、逆の思いも生じてきた。「大嫌いだ」と口にしているうちに、今度は「あれ? 本当に?」という疑問が湧き始めたのだ。
「『嫌いじゃないかも?』って思ったんです。たとえると、私はハート形の愛情を、手渡しで欲しかったんですけれど、親は全然違う形の愛情を、ポケットに入れておくとか、私が欲しいやり方じゃない方法で、くれていた。それを私が『もらってない、もらってない』って“ないもの”にしちゃっていたんです。ポケットを開けてみたら『あ、あったな』みたいな感じ。それに気づかなかった自分が嫌なんだな、と思って。
子どものときに『勉強しなさい』ばかり言われていたのも、『将来困らないように』という親なりの愛情だったんですよね。そういうのを1個1個、『知っていたかったな』と思います。そうしたら、ありがとうって言えたのに」
親を嫌いだと思ったのも、親からの愛情に気づけなかった自分を嫌だと感じたのも、どちらも本当の気持ちなのだろう。気づけないようなやり方で渡されても、愛情を受け取れないのは当然だ。負の感情を認めたからこそ、光世さんはそれまで気づかなかった親なりの愛情にも、気づけたのかもしれない。
次の課題は、娘と向き合うこと
光世さんはその後、「目の前のことだけに集中しやすくなった」という。以前は、夫や子どもとやりとりするなかで、過去に自分が親からされた嫌なことをよく思い出していたが、それがなくなったからだ。誰かが「これをあげる」と言ってくれたときも、「いらない、もらいたくない」と拒絶していたが、いまは「受け取りやすくなった」と話す。
「受け取るための袋をやっと開いた、みたいな感じです。ずっと袋を開けていなかったから、ぼろぼろ落としていたんだと思います。誰が愛情をくれても、『もらってない、ちょうだいちょうだい』みたいにブーブー言っていた。
でも、親の愛情が『あった』と気づけてからは、『あるから、出せる』みたいに変わったんだと思います。前は『ない』と思っていたから、『私からは出ません』と言っていたのが、今はやっと『出すことで頑張る側』になれたのかな、という感じです」
これから光世さんは、何に頑張るのか。次の課題は、娘さんと向き合うことだという。娘は昔の光世さんに似て、人に甘えられず、言いたいことを言えないところがある。だから、娘が将来結婚したり子どもを産んだりしたとき、自分と同じように悩むのではないかと心配なのだ。
そう口にしたとき、ずっと笑顔で話していた光世さんが、急に泣きだしてしまった。
光世さんがどれだけ悩んできたのか、どれだけ娘を思っているのか。ほんの1時間やそこら話を聞かせてもらっただけの私には、はかりしれない。ただ、もし娘さんが将来、彼女と同じように悩んだら、光世さんの体験をそのまま伝えれば十分ではないか。思いは、ちゃんと伝わるはずだ。
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