「脳は20歳以降衰えるだけ」と信じる人の大誤解 死が目前であっても新しい脳細胞は常に生まれる

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

信じ難いことに、その細胞はできてから1カ月ほどしか経っていなかった。つまり、ガン末期のドナーが死を目前にした頃にできた脳細胞だ。とすると、脳では常に新しい細胞が作られていることになる。

また、新しい細胞が、もとより海馬にあった細胞と繋がって連携し合う様子も顕微鏡で観察できた。環境にすっかり同化していたのである。60歳の被験者約100名を対象とした別の実験でも、ウォーキングを1年続けたグループは脳全体の働きが向上したことが確認されている。

成人後の脳でも「神経発生」、つまり新しい神経組織が生まれて成長することが確認されたのだ。

核実験が「脳の謎」を解いた

脳細胞の新生は決して誤差の範囲ではない。その後の調査で、海馬の細胞のおよそ3分の1が一生をかけて新しい細胞と入れ替わっていることがわかった。

なぜそんなことがわかるのだろう? ドナーの脳で新しい細胞が見つかっても、それが成人してからできたのか、それ以前からあったものなのか、なぜ判別できるのだろう。先ほどの調査で判明したのは、あくまでも最近、つまりBrdUで調べた時点で新しく生成された細胞であって、その人の誕生時まで遡って新生されているか確認することはできない。

この謎を解くため、スウェーデン・カロリンスカ研究所の研究チームは、神経科学からおよそ想像できないものの助けを借りた。「核兵器の実験」だ。

1950〜1960年代の冷戦時代には核実験が繰り返し行われ、実験場の多くは太平洋の環礁だった。だが、たとえ地球の裏側で行われようとも、実験によって大気中に放出された放射性同位体「炭素14」は世界中に拡散する。その濃度は定期的に測定されているので、その年ごとに大気中に「炭素14」がどれくらい含まれていたのかがわかっている。

脳で新たに細胞ができれば同時に新しいDNAもつくられ、その年の大気中の濃度と同じ割合で炭素14がDNAのらせんに取り入れられる。となれば、年ごとに記録された炭素14の濃度と照らし合わせれば、その細胞が作られた年を特定できる。

45歳の男性の脳で45歳の細胞が見つかれば、それは男性が誕生したときにできたものであり、30歳の脳細胞なら男性が10代の頃にできたことになる。

次ページ脳細胞は毎日1400個生まれている
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事