現実的には、支払い方法に対する好みは国ごとに顕著な違いがある。ドイツ、オーストリア、スイスといったドイツ語圏の国々では現金の使用率がいまだに高い。フランスやベネルクス諸国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)、スカンディナビア諸国などの近隣の国々では現金の使用率が大幅に低下しているにもかかわらず、だ。
ドイツ人は口座引き落としも大好きである。口座引き落としは、消費者が、電力会社や通信事業者などに対して、月々の請求を口座から引き落とすことを許可する継続的な指図で、ドイツ人は1人当たり週に2件以上(!)、これをおこなっている。
これほど多く口座引き落としをおこなっている国はほかにはない──スイスは確実に違うといえる。口座引き落としが1人当たり月1件に満たないのだから。
唯一ドイツに迫っているのはオランダで、1人当たり週に約1.5件の口座引き落としをおこなっている。これはオランダ人がドイツ人と同じようにスケジュールやしくみを強く好むからかもしれないが、他方でドイツのような現金に対する偏愛は見られない。それぞれの国で、独自の支払い方法の組み合わせがあるのだ。
研究者たちの関心対象に
「私たちがどのように支払うか」は経済学者や研究者たちを長きにわたって困惑させてきた。国ごとにさまざまに異なる支払い方法を、説明変数を使ってモデル化することが試みられてきた。
たとえば、犯罪率(犯罪率が低い──すなわち盗難が少ない──と現金が好まれるかもしれない)や金利(金利が高いと、小切手のように決済に時間がかかる方法が好まれるかもしれない)によって。しかし明らかになったのは、これらの変数では私たちの選択をうまく説明できないということだった。
その代わり研究者たちは、カードの利用率の低さが、カードの受容度の低さと相関関係にあることに気がついた。もちろん、因果関係が気になるところである。特定の国々でカードの利用が少ないのは、カードを使えるところが少ないからなのか、それとも、人々がカードを使いたがらないからカードを使えるところが少ないのか?
これらの変数は、国ごとの違いもあまり説明できていない。もしアメリカ人が小切手を好む理由が、ほかの選択肢と比べたときの小切手の魅力にあるのだとしたら、同じ選択肢があるほかの国々で小切手がほとんど使われていないのはなぜなのか?