その答えの一部は、決済の背後にある慣習に見つかるかもしれない。決済のたびに、私たちはどのように支払うかを選択している。とはいえ、私たちがいかに支払い、支払われるかは、私たちが何を望んでいるかだけではなく、周囲の人々がどのように支払い、支払われたいと考えているかにも左右される。
決済のしくみは──それが銀行口座や財布、カード、現金やそのほか、何をベースにしているものであれ──、受け入れられてはじめて有用なものになる。決済のしくみが受容されるかは、慣習や習慣にかかっているが、その中には文化的嗜好のような「ソフト」なものもあれば、カードの読み取りができる端末をもっている店がどれだけあるかといった「ハード」なものもある。
ソフトなものもハードなものも、変えるのは難しい。
鉄道規格の例から考える
こうした慣習を変えることがなぜそんなに難しいのかを理解するため、また、アメリカ人がなぜこれほど小切手を使うのかを説明するためには、決済の最も重要な(そしてとても興味深い)要素のうちの2つ──遺産とネットワーク──の役割に目を向けなければならない。
約200年前、優秀な技術者であったイザムバード・キングダム・ブルネルは、ロンドンとブリストルをつなぐグレート・ウエスタン鉄道の建設を依頼された。彼がその仕事を得たのは、マンチェスターとリバプールを結ぶ鉄道が建設されてから8年後のことであった。
この鉄道で採用された1435ミリメートル(メートルに不慣れな方々のために付け加えれば、これは4フィート8.5インチである)の「スチーブンソン軌間」は狭すぎるとして、ブルネルは2134ミリメートル(7フィート)の軌間にすることを選んだ。
たいていの鉄道技術者は、ブルネルに賛同しただろう。グレート・ウエスタン鉄道の軌間は、スチーブンソン軌間よりすぐれていた。より広い軌間は、イギリスの旅客に、よりすぐれたスピードと安定性、そして待ち望まれていた輸送力を提供することができたはずである。