しかも、それが国家ぐるみで行われれば、世界の決済業界を激震させることになる。決済オタクであり、SWIFT(国際銀行間通信協会)の元CEOでもあるゴットフリート・レイブラントの新刊『教養としての決済』(ナターシャ・デ・テランとの共著)から、「国家ぐるみの銀行強盗」とも言われた北朝鮮ハッカー集団、ラザルス・グループがバングラデシュ銀行を襲撃した顛末を紹介する。
大規模ハッカーにとっての理想的な条件
偽造、フィッシング、クレジットカード詐欺、出会い系アプリ詐欺、暗号通貨詐欺……。
これらはいずれも、億万長者をめざす犯罪者にとっては欠点がある。それはたとえば比較的ローテクだったり、物理的にどこかにいる必要があったりすること、悪意のあるインサイダーやソーシャル・エンジニアリングに依存すること、規模が限定的だったり、出口でのリスクが高かったり、見つかりやすかったりすること等である。 つまり、このような手法には限界があるのだ。
では、本当に大金を盗みたいときにはどうすればいいのか? 本物の決済の出入り口に向かうのだ──銀行と、銀行が大口の支払いに利用するシステムに。
そのような攻撃をおこなうことができる者は、ごく少数に限られている。いくつかの前提条件を満たす必要があるからだ。
どんな犯罪でもそうであるように、捕まる危険性がないか、捕まったとしても何の罰もないという状況が欠かせない。そして、膨大なサイバー兵器を自由に使えること、失うものが何も──自身の金融システムもふくめて──無いことも重要になる。
1つの候補が頭に浮かんでくる。北朝鮮だ。