「高額紙幣の廃止」で犯罪撲滅を図った国の末路 インドと北朝鮮がやらかした壮大な経済失策

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日常生活ではそれほど頻繁に使われない高額紙幣。むしろ犯罪など地下経済で重宝されているという(写真:Caito/PIXTA)
現金は追跡が困難であることから、百ドル札などの高額紙幣は、日常生活ではそれほど頻繁に使われず、むしろ犯罪など地下経済で重宝されている。であれば、高額紙幣を廃止すれば犯罪を減らせると考えることは自然だが、事はそう簡単ではない。決済オタクであり、SWIFT(国際銀行間通信協会)の元CEOでもあるゴットフリート・レイブラント氏の新刊『教養としての決済』(ナターシャ・デ・テランとの共著)から、高額紙幣を廃止して国内で混乱を巻き起こした事例を紹介する。

犯罪者にとって都合がいい高額紙幣

高額紙幣の量と使用状況のデータに基づいた試算の中には、アメリカのような先進国においてさえ、地下経済の規模はGDPの25%にまでおよぶとするものもある。そこには脱税のほか、麻薬や人身売買などの犯罪行為もふくまれる。

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アメリカの麻薬経済の規模は年間1000億~1500億ドルと推定され、そのほとんどは現金で支払われており、そのうちの大部分が高額紙幣であると考えられる。ところが興味深いことに、アメリカの紙幣の90%にコカインの形跡が残っているのに対して、百ドル札ではその割合が著しく低い。

高額紙幣が麻薬の支払いに用いられる一方で、小額紙幣にはまったく異なる用途があるらしい。

経済学者たちは、各国政府がマネーロンダリングに対して厳しい体制を敷いている一方で、 高額紙幣を刷っていることの本質的な矛盾について長らく指摘してきた。

高額紙幣は明らかに、犯罪者にとって都合がいい。100万ドルを一ドル札で用意すれば重さが1トン以上、体積が1立方メートル以上になるが、百ドル札で用意すればおよそ10キログラム(22ポンド)になり、ブリーフケースひとつにきれいにおさまる。

さらに高額な五百ユーロ札の場合は、同じ100万ドルが、重さはたったの2キロになり、小さいバッグ──あるいは大きな胃袋──におさまるようになる。実際、2004年に不運な「ユーロ運び屋」がコロンビアへの道中で捕まったが、彼は胃袋の中に20万ユーロ分の五百ユーロ札をおさめていた。

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