内定辞退の方法が電話からメール、それもテンプレート化されたメールへと変わってきている様子を詠んだ作品。これまでは、企業から学生への不合格メールをお祈りメールと呼び、学生は不合格だったことを「祈られた」と表現していたものだが、時代は変わったようだ。
内定辞退を伝えるメールの末尾には、「貴社の益々の発展を心よりお祈り申し上げます」と添えられていたとか。もはやお祈りメールは学生が恐怖するものではなく、企業が恐れるものになりつつある。学生の反撃が始まったといってもいいだろう。採用担当者からすれば、いろいろと聞きたいこともあるだろうし、せめて最終選考や内定の辞退ぐらいはメールではなく、電話で伝えてほしいところだろう。
以前は少なかった「なるべく住環境を変えずに、自宅通勤で働きたい」と主張する就活生の増加に、「甘いぞ」と言いたげな作者の悶々とする心情を詠んだ作品。転勤や単身赴任をなくす大手企業が現れるなど、多様な働き方を認めようという動きが広がりつつある中、「原則・在宅勤務」という企業も徐々に増えはじめている。「家のそば」どころか「家の中」というわけだ。「自宅から通いたい」から「自宅で働きたい」と主張する学生が増える時代もそう遠くないかもしれない。
「ガクチカ」がない
佳作をあと3作品紹介しよう。
2020年1月頃から突如として湧き起こった今回の新型コロナウイルス。通学や各種課外活動がまともにできたのは1年生の1月までで、その後の2年間以上を自粛して過ごさざるをえなかった2023年卒の学生たちにとって、従来の先輩たちのように語ることのできる、留学、サークル活動、ボランティア、アルバイト、旅行などのアクティブな「ガクチカ(学生時代に力を入れた活動)」はない。
「ガクチカ」抜きに彼らを評価せざるをえない、今の採用の難しさと学生の大変さの両方を詠んだ作品である。「ガクチカ」がないことを嘆くのは採用担当者のほうではなく、むしろそのような体験をすることができなかった学生たちのほうだろう。何せ「普通の」学生生活を送ることすらできなかったのだから。未だコロナ禍の終息が見えない中、「ガクチカ」の新たなあり方、表現方法を模索していく必要がありそうである。
対面の面接では、質疑応答以外の所作や雰囲気は確認できるものの、マスク越しであるため顔全体の表情は確認できない。一方、オンラインでの面接であればマスクの着用は必要なく、顔全体の表情が確認できるのが普通だ。ところが、「オンライン」でかつ「マスク着用」という二重苦で、絶望的に手ごたえのないさまを表現したのが、この作品である。
採用担当者のこの上ない失望感が、「なのに……かよ」に見事に凝縮されている。作者によれば、オンライン面接なのにマスク着用の学生はこの1人だけではなく、そういった学生が何人もいたとか。表情を悟られたくないのか、化粧が間に合わなかったのか、自宅ではなく周りに人がいる環境だったのか、マスク着用の意図は不明なままだ。
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