社会では、このような合理的配慮を「特別扱い」と揶揄する人もいる。だが、稲田前校長はその言葉をこう否定する。「どの生徒も、手助けが必要な場面はあります。林さんにだけ特別なことをしたわけではなく、他の生徒でも必要なことがあれば、手助けや指導をします」。
そのうえで、「『障害者のための特別な配慮』という、上から目線のようなことではなく、京香さんには、その生徒が必要だと思うことを支援しました」と言う。
特別支援と合理的配慮の違いとは?
それでは、特別支援学級や特別支援学校で行われる「特別支援」と、今回紹介した「合理的配慮」は、どのように違うのか。
アリエ法律事務所(東京)の弁護士、大谷恭子さん(72)は、2020年12月、世田谷区で開催された市民向けの「インクルーシブ教育に関する学習会(主催:桜井純子世田谷区議会議員)」で、この2つの違いをこう説明した。大谷弁護士は、神奈川県川崎市で重度障害のある医療的ケア児が市の小学校への就学を断られ裁判になった事件(川崎就学裁判)で、原告側の弁護団団長を務めた。

「『特別支援』は、『障害を個人の能力の欠損と捉え、障害があることで社会的に不利益を受けるから、その個人の能力を高める』という観点(「医学モデル」と呼ばれる。連載第1回で詳述)から出てきた言葉です。特別支援の場合は障害の有無によって、場所を分けた形をとります」
それに対して、「合理的配慮」は「社会から絶対に排除しない」という観点から出てきた。「障害のある人が、障害のない人と平等に社会へ参加するために必要な支援や工夫が合理的配慮です」と大谷弁護士は説明する。
現在、行政や企業、学校では障害のある人から合理的配慮を求められれば、それに対応することが義務づけられている。一方、合理的配慮で対応していくには、個別具体的な準備やノウハウ、周囲との調整が必要で、予算措置だけでなく、よい形になるようにと考えるための時間もかかる。
しかし、前述の障害者権利条約では、「インクルージョン(分けない、排除しない)」「あなたらしく(自己決定権)」「地域で生きる」の3つが障害のある人が生きていく柱になる。このため、大谷弁護士は「障害のある人から合理的配慮を求められ、それを受けられない場合、人権侵害に当たります」と強調する。
今年から、文部科学省は教員や学校の経験を地域で共有できるよう、地域の学校と特別支援学校との間で教員の交流人事を始めた。だが、日本のインクルーシブ教育への道のりは、まだ地域格差が大きいままだ。
参考:インクルーシブ教育データバンク編[2017],『つまり、「合理的配慮」ってこういうこと?!――共に学ぶための実践事例集』,現代書館
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