帰り道、すぐに口を開いたのは陸くんのほうだった。「電車に乗って行くことになってもいい!お母さん、僕この塾に通いたい!」力強く話す陸くんの様子に、小百合さんは転塾を決めた。
塾での勉強は陸くんの好奇心をかき立てるものだった。一方で、学校は相変わらずの荒れ具合。そのうえ、少しドジな面のある陸くんは友達にからかわれることも増えていた。忘れ物が多く、クラスでも担任からたびたび注意を受ける陸くんに、「お前、また忘れたのかよ~(笑)」と、馬鹿にする級友たち。陸くんは「いつか見返してやる」と思っていたという。
咳がきっかけで見つかったIQ130のギフテッド
5年生になると通塾日が増え始めた。塾自体は嫌がることなく通っていたが、冬休みが明ける前日、突然身体に異変が起こりはじめた。
「ゴホ、ゴホ」
と、咳が始まったのだ。
早速病院に連れて行ったが「風邪かなぁ」と言われるだけで、両親も深刻には受け止めなかった。ところが、だ。学校が始まると今度は「お腹が痛い」「夜、眠れない」「頭痛がする」と、次々と新たな症状が現れた。そして、とうとう勉強にも支障が出始めた。
ある模試の当日、受けると言って出て行ったはずの陸くんは、会場にいなかった。塾から知らせを受けた小百合さんが本人を問いただすと、近くのビルのトイレで3時間過ごしたという。
成績順に決まる塾のクラスも下がってしまった。それまで、二番手クラスを死守していたのが五番手クラスに降格、体調も日に日に悪くなり、小学校も保健室登校の日が続いた。何かストレスからくる病気だろうか……そう考えた小百合さんは、専門医を探すことにした。
受診にたどり着くまでは、想像以上に時間がかかった。インターネットで情報を集め、こうした症状を見てくれる小児科外来にいくつも連絡を取ったのだが、いずれの病院も予約が埋まっているため、すぐには診られないという。
一番連れて行きたいと思ったC病院にいたってはなんと3カ月待ちの状態だった。そこで、別の病院の予約も同時進行で行い、3つの病院を予約した。
最初に受診日がやってきたのはA病院だった。問診、診察の結果、医師から言われたのは「自閉症スペクトラム」ではないか、ということだった。
対人関係が苦手で、強いこだわりを持つのが特徴の発達障害のひとつで、まずは検査をと言われ、予約することに。しかし、小百合さんにはしっくりこなかった。
「自閉症スペクトラムの場合、目を合わせない、友達と遊ぼうとしないというようなことが特徴として書かれていたのですが、強いこだわりがある以外、陸にはどれも当てはまらなかったんです」
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