井村屋が「アンナミラーズ」の閉店を決めた経緯 長く愛された一方で抱えていた課題

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バブル世代とその子ども世代は、1980年代の文化を親子で継承する傾向がある。スキー場人気は再燃したし、母親が好きだった松田聖子を子どもも好むといった話はよく聞く。しかし、アンナミラーズを親子で楽しむには、残った店舗数が少なすぎたのかもしれない。

ただ閉店後はECショップのみとなるものの、アンナミラーズブランドを使った新しい展開の可能性はあるそうだ。

アンミラのパイには「再発見」される可能性もあった

スイーツの人気については、1990年以降、流行の変化が激しい。ティラミスにナタデココ、エッグタルトと、さまざまなスイーツが1990年代には流行った。後半になるとフランス菓子中心にスイーツブームが起こったが、リーマンショックと共にパンブームへと移る。ライフスタイルの多様化で、ケーキを家族で楽しむ風潮も薄れ、クリスマスケーキもずいぶんと小さくなっている。

大きくて、ザクザクした食感のアメリカンパイがアンナミラーズの看板商品だった。写真はココナツカスタードパイ(写真:井村屋提供)

近年は、1月のガレット・デ・ロワ人気、イギリス発祥のヌン活ブーム、中東のバクラヴァやピスタチオスイーツが注目される、グルメかき氷やドーナツのブームが広がるなど、人気のスイーツは多様になっている。

いくつもある流行の中で、数年前からアップルパイも流行しているので、アンナミラーズのアメリカンスタイルのパイは、再発見される可能性もあったはずだ。テーマパークみたいなパン屋が登場するなど、世界観を作り込んだ飲食店も人気が高まっているようにも見える。

アンナミラーズのリアル店舗がなくなってしまうのは、いくつもあったはずの再燃するきっかけを、ついにつかめなかったことに尽きると思われる。それはどこか、30年余りも昭和の価値観を引きずる日本社会の写し絵のようにも見える。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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