井村屋が「アンナミラーズ」の閉店を決めた経緯 長く愛された一方で抱えていた課題

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1990年代後半になると、デパ地下に増えたフランス菓子店とパティシエのブームが到来。フランス菓子を看板にした店が次々と登場する。1980年代に人気だったアメリカンスタイルの大きくて素朴なテイストの焼き菓子の存在感は弱まり、ムースやタルトを使う技巧を凝らしたフランススタイルの生ケーキが人気になる。井村屋も2003年からフランス発の「ラ・メゾン・ジュヴォー」を展開し始めている。

1985年のプラザ合意以降進んだ円高で、海外旅行も身近になり、日本で疑似体験しなくても、実際に憧れの地に行ける人も増える。一方で、不況の影響は若い世代を直撃し、就職氷河期を経て格差が拡大していく。時代は大きく変わり、よりグルメな方向へ行く人、よりカジュアルでリーズナブルな方向へ行く人、と人々の嗜好も多様化した。

アンナミラーズもその間、手をこまぬいていたわけではない。ティラミスパイや豆乳を使ったチーズケーキなど、いち早く流行を取り入れた商品を開発。パンケーキブームの折は、パンケーキも販売していた。

アンミラが長く愛された理由

1996年に放送を開始し人気だった朝の情報番組『はなまるマーケット』(TBS系)でアンナミラーズのチーズケーキやバナナチョコレートパイが紹介されると、全国の百貨店などで催事販売をした。2000年に開業直後のお台場のアクアシティに出店した折は、流行のフュージョン料理を提供するエリアとアンナミラーズカフェのエリアを組み合わせた新店舗を開業し、人気を博した。

長く愛されたのは、非日常の異空間を時代に先駆け作り上げるなど、映える空間とスイーツを提供してきたからとも言える。内装も、時代に合わせてアップデートしてきた。

一方、最近は「SNS映え」がスイーツ人気の条件となっており、アンミラの内装や大きなパイなどは映えポテンシャルがあったと思われるが、自社で積極的にピーアールするなど、「そうした展開とは一線を画していた」(尾崎氏)という。創業以来の「アンミラの世界観」を保つためだったとみられるが、若い層の取り込みは思うように進まなかった。

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