大久保利通だからといって何だというのか。江藤新平は歯牙にもかけなかった。
西郷が出席した1回目の閣議では、こんな場面もあった。会議の終了後、三条は会議の経過を奏上するために参内。三条が席を外すと、江藤は西郷のもとへ駆け寄った。
西郷からすれば、この日に自身の朝鮮派遣を決めてもらうつもりだった。最終決定に至らず、西郷が神妙な面持ちをしていると、江藤がこう声をかけて慰めたという。
「三条公に決断を迫るのは、尼に男根を出せというのと同じではないですか」
下品なジョークだが、これには西郷などほかの参議も大笑い。何も焦ることはありません、明日自分がなんとかしますから。そんな自信の表れのようにも聞こえる。事実、江藤は大久保を押し切り、西郷を使節として派遣する方向へとまとめあげてしまった。
やられたまま引き下がらない大久保
もし、このときに大久保が閣議の決定を渋々ながらも受け入れていたならば、どんな未来が待ち受けていただろうか。
少なくとも西郷が内乱を起こさずにすんだ可能性は高い。
だが、現実はそうはならない。大久保がしてやられたまま、引き下がることなどありえなかった。
そう来るならば、おもしろい。受けて立ってやろうじゃないか。
江藤への怒りに震えながら、大久保はここから会議をどうにかしてひっくり返そうと画策することになった。
(第40回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』(講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』(ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵”であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ)
鈴木鶴子『江藤新平と明治維新』(朝日新聞社)
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