「相手の暴挙を予想して戦争の準備をするために、使節の派遣を延期するという理屈は成り立たない。そのような異常な事態ならば、そもそも使節派遣自体が無用となる。よって延期もありえない」
本当に使節が殺されると思っているなら、外交上の話し合いの余地もないのだから、派遣する意味はない、というわけだ。
江藤は、まだ衝突してもいない朝鮮との戦争よりも、警戒すべきことがあると強調。それは朝鮮派遣を却下した場合に西郷がとる行動だった。江藤は「西郷の指揮のもと近衛兵が暴発したら、どんな事態になるか」と懇々と説いている。
「もし、西郷参議たっての願いを棄却したならば、どうなるか。かの人は必死である。国家にとっては最悪の事態に至るやもしれませんぞ」
大久保の矛盾をつきまくった
江藤もまた、大久保と同様に弁が立つ。弁舌の切れ味の鋭さから「カミソリ」とも称されている。
実は江藤は前日の閣議でも、大久保と論戦を交わしていた。江藤からすれば、大久保の論理は「西郷が朝鮮に渡れば戦争になる」という決めつけのうえで、成立しているもので、その矛盾をつきまくった。
形勢不利に焦った大久保は、眼を血走らせながら反論するが、場をコントロールしたのは、江藤のほうだった。大久保は江藤に言い負かされてしまったのである。
議論を受けて、三条と岩倉は2人だけで相談する場を持っている。しばらくして、結論をこう発表した。
「西郷が辞職まで言い張るなら、西郷に任せる」
まさかの裏切りである。孤立した大久保も同意せざるをえず、満場一致で西郷の派遣が決定されることとなった。
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