「2000年代、ロードサイド型のチェーン店が増え、ローカルな店舗が潰れていった」という教科書の記述を、学校の先生が「グローバリゼーションがローカル性を略奪する」と批判的に説明する一方、チェーン店の恩恵をたっぷり受けていた三宅さんは「そうかなあ」と首を傾げていた……『それを読むたび思い出す』ではそんな学生時代の思い出が描かれていますが、僕も『ドンペン』の中で、まさに同じことを指摘しているんです。
三宅:本当に同じことを書いてて、私もびっくりしました。谷頭さんの本の中では、多木浩二の評論「世界中がハンバーガー」(※)について言及されていますよね。
編注2:初出は『都市の政治学』(岩波新書)
谷頭:ファストフードの普及によって、その土地にもともと根付いていたオリジナルな食文化が希薄になって、「世界中どこでも同じ」食の風景が生まれたことを批判的に書いていまよね。
三宅:私も国語の授業で読んだ記憶があるんですが、あれってけっこう、私たちの世代の中では共通の思い出なんじゃないかと思っているんですよ。当時は「グローバルvsローカル」みたいな構図が、授業でも取り上げられていましたね。
「チェーンストア=良くないもの」なのか?
谷頭:多木は戦争を経験した世代ですし、その後、日本に訪れたアメリカ化の波に危機感を覚えたのも理解できるんですが、これだけチェーンストアが社会に根付いた今でも、「チェーンストア=良くないもの」と扱われるのが、あまり納得できないんです。今も高校国語の教科書には「世界中がハンバーガー」が掲載されているんですよ。
三宅:今も載ってるんですね。
谷頭:そうなんです。実際、古本屋チェーンのブックオフも、創業してからしばらくは「地域の書店を廃業に追い込み、出版業界を破壊する」と非難されていたわけですが、チェーンストアが地域の文化を駆逐し、その町の固有性を希薄化する、という認識は今でも根強いですよね。
要するに、どこも同じような街並みになるということなんですが、そのせいか、チェーンストアは「文化の貧困さ」を表す記号としても働いている。
三宅:たしかに、ローカルな地元らしさを失わせた面もあったのかもしれないけど、私としてはチェーンストアはむしろ「文化の分配」だと感じていました。友達と喋るココスやミスドも、好きな本や映画に出会わせてくれたTSUTAYAもチェーン店ですから。逆にチェーン店がなければ、本当に何もなくなってしまうんじゃないかな。
谷頭:「無」の状態と言いますか。
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