退任するフィリピン大統領が6年間で残したもの 民主主義の価値観を軽視しても国民には愛された

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2019年に東京で演説するドゥテルテ大統領(写真・2019 Bloomberg Finance LP)

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領(77)が2022年6月30日、6年の任期を終える。数々の暴言、中国との宥和、少なくとも6000人を警官らが殺害した麻薬撲滅戦争などで、日本をはじめ外国からは型破りのリーダーとみられ、たびたび物議を醸してきた。他方、国内では歴代最高の支持率を最後まで維持し、大多数の国民から愛された。フェルディナンド・マルコス・ジュニア(ボンボン・マルコス)次期政権への影響力を残して去る異形の指導者の功罪を振り返る。

「国民への約束はすべてをやり遂げた」

ドゥテルテ氏は2021年12月2日の演説で「私の任期も終わりに近づいている。少しばかり誇らしく思うのは、国民に約束したほとんどすべてをやり遂げたことだ」と胸を張った。ドゥテルテ氏によると「公約は5つだけだった」という。側近のボン・ゴー上院議員も2022年4月、政権は10の選挙公約のうち9つを達成したと述べた。

ドゥテルテ氏は選挙中も就任後も、あまたの「約束」をしてきた。5あるいは10の公約が何を指すのか明確にしていないが、客観的に見れば、ほとんどの公約が達成されたとはとても言えない。私個人の印象としては、期待外れや肩透かしの多い6年間だった。

こうした「ダメ出し」をすると、多くのフィリピン人やドゥテルテ好きの日本人から強い反発を招き、「外国人の上から目線」と批判を受けるのだが、私が失望しているのは、ドゥテルテ氏への期待が大きかったことの裏返しでもある。

就任前には、少数の家族が長年政財界を牛耳ってきたオリガーキー(寡頭)体制の打破を目指すのではないかと期待した。中央での政治経験はほとんどなく、南部ミンダナオ島ダバオの市長から国政トップに駆け上がった剛腕政治家のイメージがあったからだ。

身近な話をすれば、渋滞に辟易し、タクシー運転手との値段交渉に疲れる首都圏からダバオを訪れると、交通渋滞はまれで運転手がメーターを倒してお釣りさえくれることに驚いたものだ。時にタクシー運転手に身をやつして街を視察したドゥテルテ氏が、市中に規律を持ち込んだ結果だという「神話」が語られていた。

首都圏の渋滞の主因はインフラ不足なのでそう簡単に解消しないにしても、ダバオ同様、運転手に交通マナーを守らせるぐらいのことはしてくれるのではないか、アジア最悪とされる渋滞を少しでもマシにしてくれるのではないかと期待したのだった。ハード面でもソフト面でも、「世界最悪」とされたマニラ国際空港もなんとかしてほしかった。

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