フィリピン大統領に非難込めたノーベル平和賞 黄昏のドゥテルテ大統領に国際社会が与えた一撃
2022年5月に実施されるフィリピン大統領選の立候補締め切り日だった10月8日夕刻、選挙の構図が固まったかどうかをチェックしていた私は思わずエッと声を上げた。ネットメディア「ラップラー」のマリア・レッサCEOがノーベル平和賞を受賞したとの一報が飛び込んできたからだ。同氏が推薦されたという報道に接した記憶はあったが、ジャーナリズムの世界から選ばれるとすれば「国境なき記者団」だろうと想像していた。
言論弾圧の国際認定
レッサ氏の受賞はひとえにドゥテルテ大統領がゆえ、である。私は新聞社でマニラ特派員をしていた1990年代から、CNNマニラ支局やジャカルタ支局でリポーターを務めるレッサ氏の仕事ぶりを見てきた。2012年にラップラーを設立して以降も、リベラルな立ち位置から時の権力を批判的に報道してきた彼女の姿勢は一貫しており、変化していない。今回の受賞は、彼女が世界を揺るがすスクープを放ったからではない。
ドゥテルテ政権が最重点施策とする「麻薬撲滅戦争」で、司法手続きを経ない超法規的殺人を繰り返してきた実態や、SNSを使って世論を誘導するさまを粘り強く告発し、政府とその支持者から執拗な攻撃を受けながらも敢然と報道を続けていることが評価されたのだ。
ドゥテルテ政権は2018年以来、レッサ氏を名誉毀損や詐欺、脱税などで次々と訴追し、二度逮捕した。保釈金を払って拘束は免れているものの、数件の裁判が進行中だ。刑事被告人であることを理由に出国を禁じられ、アメリカでがんを患う母親に会うことも許されない状況に置かれている。
法の遡及適用など首をかしげる司法手続きに加え、大統領自らが記者会見でレッサ氏を「詐欺師、うそつき」、ラップラーを「偽情報機関、CIAの手先」などと罵倒し、会見からラップラーの記者を恒常的に追放した。ドゥテルテ氏の支持者らはこれに呼応してネット上で罵詈雑言を嵐のように浴びせ続けている。
ノーベル平和委員会はこうした捜査や訴訟、親ドゥテルテ陣営からの非難を吟味したうえで受賞を決定したのであろう。レッサ氏とラップラーに対する政権の対応は正当な司法手続きなどではなく「言論弾圧」と認定したわけだ。
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