フィリピン大統領に非難込めたノーベル平和賞 黄昏のドゥテルテ大統領に国際社会が与えた一撃

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フィリピン人は他国の人と同様、あるいはそれ以上に国際社会で評価された同郷の人々を称賛し、誇りとする傾向が強い。ボクシングのマニー・パッキャオの試合中は街角から人影が消え、ブロードウェーで活躍したレア・サロンガは永遠の国民的ヒロインだ。ミスユニバースで世界一ともなれば、一夜にして全国民あこがれのスーパースターとなる。

ところが、今回はフィリピン史上初のノーベル賞受賞にもかかわらず、国民全体が祝福する雰囲気にはほど遠い。リベラル系のメディアや、反ドゥテルテ陣営から次期大統領選に立候補するレニー・ロブレド副大統領こそレッサ氏の業績を称賛し、お祝いのメッセージを寄せているが、レッサ氏を攻撃してきたネチズンらは一斉にノーベル平和委員会を非難、揶揄する投稿を繰り返している。スポーツやミスコンと違って、われらが大統領の「政敵」の受賞を自分たちへの批判と受け止める向きが多いのかもしれない。

平和賞受賞に冷たいフィリピン政府

政権の反応はどうか。受賞決定直後にロクシン外相が「おめでとう、マリア。勝利は勝利だ。旧ソ連圏やアジアの独裁国家に影響を与えたピープルパワー革命で民主主義を回復したコラソン・アキノ(元大統領)でさえ届かなかった受賞、驚きだ」と皮肉交じりのツィートをした。

政府が正式にコメントしたのは発表3日後の2021年10月11日になってからだった。ハリー・ロケ大統領報道官は記者会見で「フィリピン人女性の勝利であり、われわれもうれしい」と話す一方、「現政権下で検閲はなく、報道の自由が阻害されていない。政府に痛手などということはありえない」と強弁し、「大統領府はナショナルアーティストの意見に同意する」と付け加えた。

日本でいえば文化功労者にあたるナショナルアーティストの作家ショニール・ホセ氏(96)が、「レッサはノーベル賞に値しない」とフェイスブックに投稿したことを指している。ホセ氏はマルコス独裁政権時代を引き合いに「私はこれまでドゥテルテを批判してきたが、それは報道の自由に関してではない。フィリピンで報道は現在機能している。これはレッサのおかげではない。記者が牢獄に放り込まれたことも検閲もない。ドゥテルテが閉鎖した新聞やラジオ局もない」とつづった。ホセ氏の投稿としては普段と桁違いのシェアや「いいね」が寄せられている。

政権として儀礼的な祝福はしたもののノーベル平和委員会の認定に納得はしていないという対応は、もう一人の受賞者ドミトリー・ムラトフ氏に対するロシア政府の表面上の祝辞と軌を一にする。ドゥテルテ氏は「私のアイドル」と呼ぶほどプーチン氏の政治スタイルに心酔しているが、当面大統領の座を保障されているプーチン氏と違って任期が8カ月後に迫っている。

それでは今回の受賞は、2022年5月に投開票される大統領選に影響するだろうか。可能性はあると考える。選挙最大の争点がドゥテルテ路線継承の是非であるからだ。ドゥテルテ的強権主義、パターナリズム、親中反米路線などを認めるかどうかといってもいい。これらすべてを批判してきたレッサ氏とラップラーに世界的権威がお墨付きを与えたことを世論がどう評価するか。

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