物価高と政情不安に陥った南アジア諸国の苦難 スリランカで非常事態宣言、物価高で苦しむインド
スリランカは4月にはデフォルトに陥っており、IMFから30億ドルの支援を受けるべく交渉を行っている。ただ、IMFの支援を受ける場合、補助金の撤廃など国内の経済構造改革が条件となるのが一般的だ。ウィクラマシンハ首相はすでに法人税や付加価値税(VAT)を引き上げ、歳入の改善に取り組んでいる。近く提出される暫定予算案も、IMFからの支援獲得を意識した内容になるだろう。しかし、パキスタンと同様に、国としての経済状況を立て直そうとすれば、短期的には国民生活がいっそう厳しい状況になりかねないだけに、慎重な舵取りが求められることになる。
南アジアの大国、インドでも物価高は進行している。
2022年4月のCPIは、前年同月比で7.79%となった。これは過去8年で最も高い水準だ。2022年2月は6.07%、3月は6.95%だったので、インフレが上昇傾向にあることがわかる。なかでも上昇率が高いのが食料品で、食用油が17.28%、野菜が15.41%、インド料理に欠かせないスパイスが10.56%となっている。
インド現政権の基盤は固いが…
こうしたなか、中央銀行であるインド準備銀行(RBI)は2022年5月4日に緊急利上げを実施し、政策金利であるレポレートを0.40ポイント引き上げて4.40%とした。6月の金融政策決定会合を待たずに利上げに踏み切ったのは、6%としていたインフレ許容上限を上回る状態が続いている状況に対する危機感の現れにほかならない。
インド政府も、2022年5月12日に小麦輸出の一時停止に踏み切った。4月のCPIで穀物の上昇率は6%弱と目立って高いわけではない。だが、今年のインドは猛烈な熱波に襲われており、小麦をはじめ農業生産への影響が懸念されている。実際、政府は5月上旬、2021/22穀物年度(6月締め)の生産見通しを当初の1.11億トンから1.05億トンに引き下げると発表した。これは、前年度実績の約1.1億トンを下回る水準だ。ロシア軍のウクライナ侵攻により国際的な小麦価格が高値で推移するなか、インドとしては輸出分を国内消費に回すことで、自国の食料安全保障を確保したいとのねらいがある。
では、政治への影響はどうだろうか。
インドの場合、ナレンドラ・モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)は下院で単独過半数を確保しており、政権基盤は安定している。したがって、パキスタンやスリランカのように首相の交代といった事態に発展する可能性はまずない。最大野党のインド国民会議派は党勢低迷が続き、その他は地域政党や特定のカーストを支持基盤とする政党が多く、現時点ではBJPに取って代われる状態にない。実際、2022年3月上旬に開票された州議会選挙では、人口2億人を擁するインド最大州ウッタル・プラデーシュはじめ5州中4州でBJPが勝利した。
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