物価高と政情不安に陥った南アジア諸国の苦難 スリランカで非常事態宣言、物価高で苦しむインド

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こうしたなか2022年3月には野党が首相不信任案を提出したが、カーン首相は自党所属の下院副議長に審議を却下する決定を下させたほか、下院を解散して総選挙に打って出ることで倒閣の動きを封じ込めようとした。さらにカーン首相は、「外国の策謀」があるとして、アメリカが背後にいると非難した。ところが、最高裁判所がこうした政権側の対応について違憲との司法判断を示したことで潮目が変わり、上述したとおり首相失職という結果になった。

変わって新首相に選出されたシャバーズ・シャリーフ氏は、3度にわたり首相を務めたナワーズ・シャリーフ氏の実弟で、自身もパキスタン最大州であるパンジャーブで州政府トップを長年務めてきた。新内閣にも経済分野で経験豊富な人材が財務相はじめ要職に起用された。だが、新政権は「打倒カーン政権」でまとまった政党の寄り合い所帯であり、呉越同舟の感は否めない。政権が変わったからといって、インフレをめぐる状況が直ちに改善に向かうわけでもない。

スリランカでは非常事態宣言

カーン前政権は2022年2月下旬に燃料価格の引き下げを実施していたが、シャリフ政権は5月27日、逆に引き上げに踏み切った。これは国際通貨基金(IMF)が融資プログラム再開にあたり条件の1つとしてパキスタン側に求めていたものだ。パキスタンとしては債務不履行(デフォルト)を回避するためには融資再開が絶対条件だが、一方で燃料価格の引き上げにより国民の不満が高まることは必至という、苦しい状況にある。次期総選挙は2023年5月までに行われる予定だが、それまでに政治経済ともに混迷が続くことは避けられなそうだ。

スリランカでも、経済危機が政治、さらには国全体を揺るがす事態になっている。新型コロナウイルスの感染拡大によって主力産業の観光業が壊滅的な打撃を受けていたところに、物価上昇が加わった。2022年3月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比で29.8%も上昇し、燃料価格の高騰や商品不足が深刻化した。国民の不満の高まりを背景に、最大都市コロンボなどで抗議デモが発生し、ゴタバヤ・ラージャパクサ大統領と兄で元大統領のマヒンダ・ラージャパクサ首相の辞任を求める声が高まった。

こうした事態に対し、ラージャパクサ大統領は2022年4月上旬に非常事態宣言を発令し、抗議活動の抑え込みにかかった。宣言は5日間で解除されたが、その後も抗議活動は続き、警察との衝突が発生したほか、4月下旬には現地で「ハルタール」と呼ばれるゼネストが実施された。このため政府は5月上旬に非常事態宣言を再発令する一方、同月9日にラージャパクサ首相の辞任を発表して事態の収拾を図ろうとした。

後継首相に指名されたのはラニル・ウィクラマシンハ氏。過去4回にわたり首相を務めたことがある、ベテラン政治家だ。だが、国民の不満の最大要因であるインフレ退治は容易ではない。物価上昇はなお続いており、2022年4月のCPI上昇率は33.8%にも達した。

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