物価高と政情不安に陥った南アジア諸国の苦難 スリランカで非常事態宣言、物価高で苦しむインド

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だが、国民生活に直結する物価高に有効に対処できなければ、2024年5月までに実施される次期総選挙の帰趨に影響が出かねない。2014年の総選挙では、当時与党だったインド国民会議派が大敗を喫した。背景には、汚職問題やBJPのモディ首相候補に対抗できるリーダーを出せなかったこともさることながら、選挙前年にインフレが10%を超え、有権者が不満を募らせていたことがあった。

2021/22年度のインドの経済成長率は8.7%と、新型コロナウイルスの感染拡大によって大幅なマイナス成長(マイナス6.6%)となった前年度からV字回復を遂げた。ただ、IMFが4月に発表した「世界経済見通し」では、2022年のインドの成長率が当初の9.0%から8.2%へと引き下げられており、ロシア軍のウクライナ侵攻の長期化や中国主要都市で実施された新型コロナウイルス対策のためのロックダウンの影響も相まって、先行きの不透明感は残っている。現時点では次期総選挙でのBJPの優位は揺るがないとはいえ、今後経済情勢が悪化するようなことがあれば、国民の批判が高まることになりかねない。

南アジア諸国の中国依存を深める可能性

こうした南アジアの状況は、日本にとっても無縁ではない。インド経済が減速すれば、日印間の投資や貿易に影響が出ることになる。また、小麦輸出の一時停止が長期化すれば、国際価格の上昇につながり、それに伴って日本の小麦製品もさらなる値上げが行われる可能性がある。

政治面でも、仮に次期総選挙でBJPが過半数を割り込むような結果になった場合、モディ政権の安定性はこれまでより不確かなものになる。地政学的な観点からは、パキスタンやスリランカの不安定化は、両国の中国依存をこれまで以上に強めることになりかねない。

IMFの支援が得られれば一息つくことはできるが、それだけで経済・財政危機から脱却できるわけではない。その状況を捉えて中国が支援の手を差し伸べることで、さらなる影響力の拡大を図ろうとすることを想定しておくべきだ。日本政府は5月20日にスリランカへの緊急無償資金協力として300万ドルを国際機関経由で提供したが、南アジアの安定化と「自由で開かれたインド太平洋」の推進を念頭に、より積極的な支援を検討すべきだろう。

笠井 亮平 岐阜女子大学南アジア研究センター特別客員准教授

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かさい・りょうへい

1976年生まれ。中央大学総合政策学部卒業、青山学院大学大学院で修士号。専門は日印関係史、南アジアの国際関係。著書に『インパールの戦い』など。

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